香りとメイク 〜歴史とコーディネート術〜

毎日のメイクは欠かせないし、すっかり生活の一部となっている、という方は多いのではないでしょうか。
最近では男性の間でも身だしなみの一つとして、また美容意識の高まりからメイクされる方が増え、メンズメイク市場も大きく成長しているようです。

ではメイクの歴史、特にここ日本でのメイクはいつ頃から始まったのでしょうか。
また、香りとメイクの共通点やコーディネート術についてもご紹介していきたいと思います。

古代エジプトでは目の周りを黒く縁取った化粧が有名ですが、これは宗教的な意味合いや眼病予防として黒や緑色のアイシャドウを塗ることから始まり、じょじょに目元を強調する装飾的な意味合いへと変わっていったようです。今で言う「目力アップ」的な発想ですね。
唇には赤色の酸化鉄や赤鉄鉱から作られた口紅を使用していたらしく、紀元前には既に今と変わらないメイクの原型が出来上がっていたということがわかります。

では、日本ではどうだったのでしょうか?

縄文〜古墳時代には、魔除けや神聖な力への祈りとして、呪術的・宗教的な意味合いで赤色の顔料を顔や体に塗るという習慣があったようです。
それが美意識に基づいたいわゆる「メイク」に発展したのは、紅、白粉(おしろい)が大陸から伝来された6世紀後半頃。。

「日本書紀」には、飛鳥時代の女帝、持統天皇に日本初の鉛白粉を献上したところ大変喜ばれたという記述があり、これをきっかけに「赤い化粧」から「白い化粧」へ移り変わっていったとされています。

  • 縄文〜古墳時代:魔除けや祈りのために赤色の顔料を顔や体に塗る習慣。
  • 6世紀後半〜飛鳥時代:紅・白粉が大陸から伝わり、美意識に基づく化粧へ。『日本書紀』には持統天皇に鉛白粉を献上した記録が残る。

以降、日本のメイクは時代ごとに変遷・発展を遂げていきます。

■平安時代(794〜1185)
貴族文化のもと、白粉で顔を白く塗り、眉を剃って額に「まろ眉」を描く「引眉」や、お歯黒、紅が施される。

■鎌倉時代(1185〜1333)
武家社会の成立により、簡素で質素な美意識が主流に。
平安期の華美な化粧は控えられるものの、階級問わず広がりを見せていく。

■室町時代(1336〜1573)
公家・武家などの上流階級では白粉、紅、お歯黒、眉化粧が継続。
軽粉の生産が盛んになり、一般庶民にも白粉が普及していく。

■江戸時代(1603〜1868)
既婚女性はお歯黒や眉剃りが一般的で、身分や既婚の証とされた。
武士のメイクは衰退する傾向にあったが、武士道の心得を説いた書物『葉隠』には武士の嗜みとして化粧が推奨されている記述もあり、一部の武士の間では習慣が残っていたと考えられる。

■明治時代(1868〜1912)
西洋文化の流入と洋装の普及に伴いメイクも近代化。
お歯黒や引眉は廃れ、口紅や頬紅などヨーロッパ風のメイクが少しずつ浸透。
男性の化粧に関しては、富国強兵政策などの影響もあり「強い男 / 男らしさ」といったものが重視され、徐々に廃れていった。

■大正時代(1912〜1926)
モダンガールが登場し、西洋風のメイクが流行。
細眉、濃い口紅、頬紅など個人の自由や表現が重視される風潮に。

■昭和時代(1926〜1989)
戦前は控えめなメイクが、戦後は華やかさが主流に。
オードリーヘップバーン風やバブリーメイクなど、時代ごとに流行も変化。
化粧品産業も高度経済成長と共に拡大。

■平成時代(1989〜2019)
バブル崩壊後、価値観が多様化。90年代は細眉・茶髪・ギャルメイクが流行。
2000年代にはナチュラル志向が強まり、韓流メイクやプチプラコスメも定番に。

■令和時代(2019〜現在)
ジェンダーレスや多様性の時代へ。
性別問わずメイクを楽しむ文化が浸透しつつある。

明治時代までは男性の化粧も一般的でした。
価値観というのは時代によって大きく変わるものですが、中でも驚いたのは15世紀末〜16世紀末にかけての戦国時代、強面で厳ついイメージがある戦国武将たちもメイクを施していたことです。

頬紅や手鏡を持ち歩き、白塗りやお歯黒を施していた武将もいたのだとか。
想像するとちょっと拍子抜けしてしまいますが、ルッキズム的な意味合いではなく、
「戦場で勇猛果敢に見えるように」
「戦に敗れた時に化粧してなければ身分の低い者と見なされてしまうので、死後も身分を保つために」といった理由からだとされています。

また、戦の前には香を焚き、興奮抑制や緊張緩和、集中力を高めるといった精神ケアを行うことも。
出陣前に兜の中に香を焚きしめて覚悟を決める者もいたのだとか。

生死を賭けた戦を前に、武士の心に寄り添っていたもの─それが香りだったとは何とも感慨深い思いです。

月岡芳年の「神君大坂御勝利首実検之図」
https://archive.library.metro.tokyo.lg.jp/da/detail?tilcod=0000000003-00009609)
でも有名ですが、大坂夏の陣で討死した豊臣氏の家臣、木村重成を首実験(討ち取った敵の首を持ち帰り大将が検分すること)する際、兜から漂う香木(※)の香りの素晴らしさに徳川家康が感嘆したというエピソードがあります。
(※伽羅だったと言われています)

血の匂いではなく、伽羅の香りだけが香るその姿に家康は感服し、重成の覚悟と美意識をもって「稀代の勇士」と讃えたそうです。

そんな家康をも唸らせた伽羅の香り。

パルファンサトリの「SATORI」はその伽羅を表現した香水です。
心を落ち着かせ自分と向き合うにふさわしい、唯一無二の世界観を感じられる香りです。
サトリ -SATORI-

どちらも女性が好むものと思われがちですが、歴史を振り返ってみると(意味合いに少し違いはあれど)むしろ男性の方が積極的に取り入れていた印象すら受けます。

近年では性別に関係なくメイクや香水を楽しむ人が増えていますが、どちらも「誰かのために」ではなく「自分のために」するものではないでしょうか。

香りは見えない美しさ、メイクやファッションは見える美しさ。
両方の美しさが揃うことで自信が湧き、心も整う。
気分が落ちている時も少し前を向くことができる。
メイクしていない時や香水を纏っていない時よりも、少しだけ自分を好きになれる。

そういったことがプラスとなって、結果的に他人からの高評価にも繋がっていくように思います。

好きな服を着て好きなメイクをし、好きな香りを纏う─
何気ない小さな選択ですが、実は立派な自己表現でもあり、日々の暮らしにワクワクをプラスすることだとも思います。

英語で「化粧している」は wear makeup
「香水をつけている」は wear perfume
どちらも「服を着る」と同じ”wear”を使うのが興味深いですよね。

全ての”wear”が皆様にとって楽しいものでありますように。

香りは嗅覚、メイクは視覚。
見た目だけでなく、目に見えないオシャレを楽しめるのが香水の良いところ。
両方をバランス良く組み合わせることで、より洗練された自分を演出することができると思います。

例えば、

■素肌感・透明感を生かしたナチュラルメイクの場合:
シトラス・グリーン・ハーバル系の香り
→軽やか・爽やかな香りが抜け感のあるメイクにマッチ。
香りが持つ美しさもいっそう際立ちます。
苔清水 -KOKE SHIMIZU-ひょうげ -HYOUGE-MOTHER ROAD 66

■強めのアイラインやカラーを生かしたモード系メイクの場合:
スパイシー・レザー・ウッディ系の香り
→重み・深みのある香りがさらにメイクを引き立て、個性を引き出します。
ミズナラ -MIZUNARA-イリス オム -IRIS HOMME-

■ピンク肌・血色感を生かしたフェミニンメイクの場合:
フローラル・パウダリー・ムスク系の香り
→甘くソフトな香りが柔らかな色合いのメイクに寄り添い、ふんわり優しい雰囲気を作ります。
睡蓮 -SUIREN-合歓 -NEMU-シルクイリス -SILK IRIS-

■大人の色気を感じさせる艶メイクの場合:
フロリエンタル・アンバー系の香り
→落ち着いた和の香りで、静かな色香を醸し出します。
夜の梅 -YORU NO UME-紫の上 -MURASAKI NO UE-侘助 -WABISUKE-

また、モード系メイクにフェミニンな香り、フェミニンメイクにマスキュリンな香りを合わせるなど、あえてギャップを楽しむのも素敵です。


過去の記事では香水ソムリエによる「月ごとのイメージカラーで選ぶおすすめ香水」もご紹介しております。
季節ごとのイメージカラーに倣ってメイクと香りを試してみるのも一つの手段。
自分では絶対に似合わないと思っていたものも、新しい魅力に気づくキッカケになるかもしれません。

8月(https://parfum-satori.com/apps/note/?p=892)

9月(https://parfum-satori.com/apps/note/?p=919)

10月(https://parfum-satori.com/apps/note/?p=1033)

組み合わせは無限です。
ぜひ自分だけの自由で心地良いコーディネートを楽しんでみてくださいね。


ニックネーム:K.S
プロフィール:パルファンサトリ フレグランススクール1級卒業。アトリエやPOP UPにて時々接客もさせていただいています。


<参考文献>

・Japaaan https://news.line.me/detail/oa-japaaan/3vbv2cus23v9

・日本化粧品工業会 https://www.jcia.org/user/public/knowledge/history

・ポーラ文化研究所 https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/culture/cosmehistory/


パルファンサトリの香り紀行_メイクの効用「化粧は人のためならず」