夜明け前。ほのかに白む空から陽が昇り、障子を切り取るように光が差し込みます。東の窓を細く開けると、一条の光が流れ込み、やがて床の間に活けた一輪の椿の足元に届きました。
壁には墨画。百舌鳥(もず)が静から動に移る一瞬の緊張感。闇の中で揺らめく蝋燭の灯りが朝に溶け込み、「暁(あかつき)の茶事」の終わりを告げます。
客たちが膝で滑る衣擦れの音が微かに、白足袋が静かに畳を踏みしめる。その音が次第に遠のき、静けさが部屋に満ちます。
紅い侘助椿はつつましやかにただ独り、自立しています。まるで、道が一人ひとりの前に続いていることを知っているかのように。
冷たい朝日が射すような、シャープなトップノート。静寂の中に咲く「侘助椿」は、薔薇に紫墨を合わせた深紅色(こきべにいろ)。ラストは、部屋に満ちた紫の香煙(こうえん)が、潔く消え去ります。