Q&A| パチュリ とはどんな香り?なぜウッディに分類されるのか

パチュリ 、ベルガモット、ベチバーをムエットで比較する調香の風景

3行要約

 パチュリ はシソ科の植物だが、香水の世界ではウッディ・アーシィな香料として扱われる

 土・湿り気・熟成を感じさせる深みが特徴で、シプレ香調の骨格を支える重要素材

 PARFUM SATORIの「HYOUGE」では、茶の湯の余白と陰影を支える香料として使われている

パチュリ とはどんな香りなのか

5月の終わりのある晩、自宅の仕事部屋で窓を開け、暗い部屋の中から夜景を眺めていました。

ふと思い立ってオルガンを開き、手探りで一本のボトルを取り出してムエットにつけました。最近は少し香りから離れていたので、自分がちゃんと評価できるだろうかという不安もありました。

最初は薄荷を思わせるような、少し涼しい香り。やがて白木を削ったような、少しかさついたウッディノートが現れます。そして最後には、ベチバーにも通じるような渋さへと移っていきました。

それは確かにパチュリの香りでした。

香りから少し離れていた期間には、理由がありました。介護の日々があり、今年の初春には母を見送り、その後しばらくは、自身の健康を整えることに時間を使っていました。

ようやく心に余白が戻ってきた気がして、その晩、ふとオルガンへ手が伸びていたのだと思います。

植物としてのパチュリ

パチュリはシソ科の植物で、インドネシア原産。インド、マレーシア、ミャンマーなど熱帯地方でおもに生産されます。草丈は90センチほどになり、葉を刈り取って日に干してから蒸留し、精油を得ます。

収穫した葉を数日間積み上げて発酵処理することで、パチュリ独特のエキゾチックな香りが引き出されます。この発酵という工程が、あの深みの源です。

採油率を上げようと蒸留しすぎると、出がらしのような印象になってしまいます。中間のいいところだけを丁寧に採ろうとすると、採油率は下がり、その分価格は高くなる。フレッシュさが命の柑橘系香料とは逆に、パチュリはサンダルウッドと同じように年月を経るほど香りが落ち着いて深みを増すとも言われます。

また、昔は鉄の窯で蒸留していたために後から脱鉄処理が必要でしたが、現在はステンレスの窯で作られるようになっています。色は濃い茶褐色をしていますが、脱色されたものも存在します。ただ個人的には、色のついたままの方が香りに力があると感じています。透明感は出にくくなりますが、パチュリという香料の本来の質感は、その濃い色の中にこそあるように思っています。

香料用品種の赤い葉の パチュリ
香料用として栽培されるパチュリ(上)と、一般的に知られる緑色のパチュリ(下)
一般的に知られる緑の パチュリ の葉。

なぜ「草」なのに「ウッディ」に分類されるのか

ラボのアシスタントから、こんな質問を受けたことがあります。

「パチュリは草なのに、なぜウッディのカテゴリーに入っているんですか?」

確かに不思議な話です。パチュリはシソ科の植物で、採油するのも葉の部分です。それなのに香水の世界ではウッディノートとして扱われることが少なくありません。

答えは、香料の分類が植物学の分類とは別の論理で動いているから、ということになります。花から採った香料がフルーティに分類されることもあるし、柑橘から採った香料が香水のなかでフローラルを支えることもある。香料は、採れた場所ではなく、最終的にどのように香るかで語られます。

パチュリを改めてブラインドで嗅いでみると、確かにウッディです。しかしそれだけではない。ハーバルな要素もあり、グリーンな側面もある。湿った藁のような印象もあれば、土を思わせるアーシィな表情もある。

昔、調香の先生がパチュリを評して「煮詰まったグリーンの茶色」と言ったことがありました。鮮やかな緑ではなく、時間を経て深みを増した緑。その色がやがて茶色へと変わっていくような香り。パチュリには、そんな不思議な重力があります。

土と森と熟成——パチュリが記憶に残る理由

なぜパチュリは、土や森を思わせるのでしょうか。

それは、この香料が「時間」を含んでいるからではないかと感じています。発酵、熟成、年月。パチュリの香りの奥には、何かが時間をかけて変化していくプロセスが刻まれているような気がします。

雨の後の森の地面を歩いたとき、あの濡れた土と朽ちた葉が混ざり合った匂い。あるいは、古い木造の蔵を開けたときに漂う、湿気と木と古い畳、時間が混ざったあの香り。パチュリはそういった、生のものが熟成していく過程の匂いに近い。

だから派手ではないのに、記憶に残る。初めて嗅いだはずなのに、どこかで嗅いだことがあるような気がする。あの感覚は、この香料が人間の記憶の深いところにある「土と時間の匂い」に触れているからではないかと思っています。

調香師にとってのパチュリ——匙加減のむずかしさ

パチュリは本当に扱いのむずかしい素材です。

単独では、ハーブをぎゅっと煮詰めたような強いグリーンウッディ。湿った藁のようでもあり、土のようでもある。そして何より、力があります。

たとえばナチュラルローズを中心にした香りに、ほんの0.01%だけパチュリを加えると、ローズに芯が通るような力強さが生まれます。香りの奥に一本の柱が立つ感覚、とでも言えばいいでしょうか。しかし少し入れすぎれば、たちまち濁ります。粗野になり、せっかくのローズが汚れてしまう。

最近の透明感を重視する香りでは、特に匙加減がシビアです。

それだけ存在感の強い香料であるにもかかわらず、一方で思い切ってたくさん使うことも可能です。実際に、パチュリを大胆に使った名香は少なくありません。

たとえばティエリー・ミュグレーの「エンジェル」では、パチュリの深く土っぽい存在感に、甘いグルマン調の要素が重なり、チョコレートを思わせる濃厚な香りの世界をつくっています。

ごく少量で香りを支えることもでき、思い切って使えば香水全体の個性にもなる。パチュリは、その両方ができる珍しい香料です。

シプレ香調を支える三つの柱

パチュリを語るとき、シプレ香調との関係を外すことはできません。

シプレの骨格は、

  • ベルガモット
  • オークモス
  • パチュリ

この三つによって支えられています。

ベルガモットが光と軽快さをもたらし、オークモスが苔むした静けさを与える。そしてパチュリが、土台となる大地の重みを引き受ける。

それぞれが際立った主張をするわけではありません。しかし三つが揃ったとき、香りの重心がどっしりと安定し、シプレ香調を形作ります。派手に前に出る香料ではないけれど、香り全体の重力を支えている存在、それがパチュリです。

HYOUGEとパチュリ——奥行きをつくるということ

PARFUM SATORIの「HYOUGE」でも、パチュリは使われています。

茶の湯の世界には、余白と陰影があります。整いすぎず、かといって乱れてもいない。あの静かな不完全さを、香りで表現しようとしたのがHYOUGEです。

パチュリはその香りの中で、前面に出ることはありません。しかし、なくなると何かが足りなくなる。茶室の床の間の奥の暗がりのような、あの奥行きの一部をパチュリが担っています。

土壁を感じる人もいれば、古い木を感じる人もいるかもしれません。香りの感じ方は人それぞれです。ただ、あの余韻の底に流れているものの一つが、このパチュリです。

HYOUGE 商品ページはこちら 
https://parfum-satori.com/?pid=16537666


お客様のご感想

実際にHYOUGEをお使いいただいたお客様の声も、ぜひご覧ください。土を感じた、森を感じた、という声が届くたびに、パチュリがきちんと仕事をしてくれているのだと、静かに確かめます。

レビューページはこちら 
https://parfum-satori.com/apps/note/latest-reviews/


PARFUM SATORI 香りJOURNAL|HOW TO|香料素材ライブラリー

▶ 学名:Pogostemon cablin(パチュリ/パチョリ) 
▶ 科名:シソ科(Lamiaceae)

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▶フランス ムアン=サルトゥーの植物園
Jardins du MIP (Musée International de la Parfumerie) – Mouans-Sartoux


発信:PARFUM SATORI
創業者・調香師 大沢さとり

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