結論:
香りを言葉にするのは、説明し切るためではなく、感じたことを人と共有できる形にするためです。
理由:
香りは目に見えず、感じ方も人によって異なりますが、言葉にすることで、何をどう感じたのかを同じ土台の上で確かめ合えるからです。
手順:
①まず香りを試す
②感じたことを、自分の分かる言葉で置いてみる
③ほかの人の感じ方と重ねながら、自分の感覚を確かめる
香りはなぜ言葉 で分かりにくいのか
香りは、目に見えるものではありません。
同じ香りを嗅いでも、「さわやか」と感じる人もいれば、「少し甘い」と表現する人もいます。
それは、香りのある部分が、その人の記憶や体験と結びついているからです。
しかも、人が受け取れるのは、多くの場合、その香りの一面です。
これは、象を手探りで知ろうとした人たちの故事にも少し似ています。
ある人は耳に触れて「うちわのようだ」と言い、ある人は胴に触れて「壁のようだ」と言い、またある人は尻尾に触れて「紐のようだ」と言います。
どれもその人が触れた感覚としては本当ですが、それだけでは象の全体は分かりません。
同じように、一人ひとりが受け取っているのは、その香りのある一面であり、しかもその受け取り方には、その人自身の記憶や体験が重なっています。
そのため、一言の形容だけで香りをそのまま伝えることはできません。
けれど、いくつかの言葉を重ねていくことで、香りに近づくための手がかりが少しずつ見えてきます。
言葉にすると何が起きるのか
では、なぜ香りを言葉にするのでしょうか。
それは、感じたことを人と共有できる形にするためです。
たとえば、同じ温度のお茶を飲んでも、ぬるいと感じる人もいれば、熱いと感じる人もいます。
感じ方そのものは人それぞれですが、ここでは「温度」という同じ指標で話しているため、意見の違いが分かります。
香りも同じです。
言葉にすることで、「どう感じたのか」という軸ができ、人それぞれの違いを共有できるようになります。そこに、同じように感じる部分があれば、共感も生まれます。
大事なことは、言葉にすることで「正解」が決まるのではない、ということです。
その香りをどう感じたかを、人と共有できるようになるのです。

感じたことを言葉にするということ
私たち調香師は、遠く離れていても、たとえば
「フルーティタイプで、トップにリガストラルを思わせるグリーンがあり、すりおろした青リンゴのような果肉感をもつネクタータイプ」
といえば、かなり近い香りを思い浮かべることができます。
こうして香りを言語化することで、見えないものについても会話ができるのです。
それは、実際にたくさんの香りを嗅いで、それを言葉にして、記憶しているからです。
しかし、香りを言葉にする方法は、こうした専門的な表現だけではありません。
実は、香りのために用意された専用の言葉はそれほど多くないのです。
そこで、ほかの感覚や印象の言葉を借りてくると、表現しやすくなります。
明るい・暗い、温かい・冷たい、やさしい、元気な、など。
同じものに触れていても、どのように感じるかは人によって違います。
けれど、先の「温度」のように同じ軸を置けば、すれ違わずに話すことができます。
肌感覚でいえば、温かみを感じる香り、ひんやりした香り。
味で例えれば、甘い、すっぱい香りなど、五感の言葉に置き換えるのが分かりやすいかもしれません。
身近なところでは、この香りのここが好き、あの人にお勧めしたい、とか、
夏の朝につけたい、静かな夜に似合いそう――そんな感想から始めてもいいのです。
また、香りを言葉にすることは、人と共感するためだけではありません。
そのとき自分が何を感じたのかを、自分の中に静かに留め、香りを記憶するための手がかりにもなります。
実際に試してみる
ここまで読んでいただくと分かるように、香りは、読むだけで理解するものではなく、実際に試して初めて見えてくるものです。
そして、その体験を言葉にしたとき、香りは初めて、自分の中でも、そして人とのあいだでも、少しずつ輪郭を持ちはじめます。
ぜひ、街に出て、いろいろな香りを嗅いで言葉にしてみてください。
花の香り、デパートの化粧品コーナー、食品売り場など、さまざまな場所に香りの入口があります。
PARFUM SATORI では、現在、香りを実際に試していただける機会として、ムエットのご用意があります。
まずは紙の上で静かに香りを広げながら、感じたことを、ご自身の言葉で置いてみてください。
その一言が、香りを深く知るための入口になります。
香りを試し、感じたことを言葉にする。
その循環こそが、香りを深く知るための一番自然な方法です。
次に読む
香りを言葉にしたあとは、実際に試してみることで理解が深まります。
発信:PARFUM SATORI
創業者・調香師 大沢さとり

