アトリエ の扉の向こうにあるもの|香りと人が出会う瞬間

アトリエ の扉を思わせる風景と香りの新しい出会いのイメージ

アトリエ に立ち始めて、気づけば3年の月日が流れていた。

この3年間、たくさんのお客様に香りをご紹介してきた。

その中で何度も感じたことがある。

香りを選ぶという行為は、単に香水を買うことではないということだ。

人生の節目。
大切な人への想い。
新しい一歩への期待。

お客様はそれぞれの物語を抱えて、アトリエの扉を開く。

私は週末、アトリエで香りをご案内しているが、毎回同じ接客という日は一度もない。

香り好きの方が、まだ知らない一本を探しに来ることもあれば、人生で初めての香水を選びに来る方もいる。

自分へのご褒美として選ばれる方もいれば、大切な人への贈り物として香りを探しに来られる方もいる。

一人ひとり目的は違う。

けれど共通していることがある。

皆、それぞれの想いを胸に抱いてアトリエへ来られるということだ。

人生の節目に香りを選ぶ人たち

特に印象深いのは4月である。

進学や就職など、新しい環境へ進む季節になると、「香りを新しくしたい」と訪れる方が増える。

新しい生活への期待。

少しの不安。

まだ見ぬ未来への希望。

そうした話を伺いながら、一緒に香りを探していく時間は、私にとっても特別な時間だ。

PARFUM SATORIの アトリエ 、調香オルガンから香料を取り出す様子

香りと心が重なる瞬間

そして接客をしていると、不思議な瞬間に立ち会うことがある。

調香師が香りに込めた物語や風景が、そのお客様の今の心境と驚くほど重なることがあるのだ。

その瞬間、お客様は理屈ではなく自然にその香りを選ばれる。

香りは目に見えない。

それなのに、その人の記憶や感情、これから歩んでいく未来と結びつく。

私は何度もその場面を見てきた。

忘れられないお客様との出会い

店頭に立ち始めたばかりの頃のことも忘れられない。

ブランドを代表する香りのひとつである「ひょうげ -HYOUGE-」をお迎えくださったお客様がいた。

当時の私は接客経験もなく、ただPARFUM SATORIが好きという気持ちだけで立っていた。

今思えば、香りの説明というより、好きなものについて夢中で話していただけだったかもしれない。

それでもお帰りの際に、そのお客様はこう言ってくださった。

「お兄さんの接客だから買いました」

その言葉は今でも私のお守りになっている。

上手な説明よりも、好きだという気持ちが伝わることがある。

香りを通して人と向き合う仕事の喜びを、私はその時初めて知った。

NEMUのモチーフである合歓(ねむ)の花

たくさんの出会いの中で、忘れられないお客様もいる。

ある日、大切な節目の贈り物として「合歓 -NEMU-」を探している方が来られた。

詳しいことは書けないけれど、その方の話を伺っていると、相手を思いやる優しさが静かに伝わってきた。

NEMUは、私にとって毛布のような香りだ。

誰かを優しく包み込み、そっと寄り添うような温かさがある。

その方が香りを選び、アトリエを後にされたあとも、店内には穏やかな空気が残っていた。

香りは記憶を留めることができる。

その時の感情や空気、言葉にならない質感までも未来へ運んでくれる。

私は香水とは、記憶の方舟のようなものではないかと思っている。

香りの奥にある扉を開くという仕事

そうした出会いを重ねるうちに、私の中でひとつの考えが生まれた。

私たち香りの案内人の仕事は、香料やノートを説明することだけではない。

もちろんそれも大切だ。

けれど、本当に大切なのはその奥にある。

大沢さとりという一人の調香師が見た風景。

そこで生まれた感情。

その時の光や空気。

PARFUM SATORIの香りは、それらを香りという形に翻訳したものだと思う。

私たちの役目は、その香りの奥にある扉を開くことなのかもしれない。

香りの向こうにある言葉。

香りの向こうにある風景。

香りの向こうにある記憶。

それらを感じられるよう、お手伝いをすること。

香水を買うということは、単に香りを手に入れることではない。

その香りと共に過ごす時間を手に入れることでもある。

実は私自身も、もともとはお客様だった。

2021年の夏、初めてアトリエの扉を開いた日の高揚感を今でも覚えている。

だからこそ思う。

これからアトリエのインターホンを鳴らす誰かにも、香りの奥にある美しさや胸の高鳴りを届けたい。

そして、その人だけの物語に寄り添う一本との出会いをお手伝いできたら嬉しい。


ニックネーム:しば犬
プロフィール:PARFUM SATORI アトリエスタッフ。もともとはお客様としてアトリエに通い始め、現在は週末を中心に香りの案内を担当。
「毎月の支出の半分を香水に充てていた社会人。最近はハーブにハマっています。」


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