香りと絵画が呼応する、陰翳と絢爛の世界
牡丹 原画展示のご案内-サロン ド パルファン 2025 –
現在新宿伊勢丹催事場6階にて開催中の「サロン ド パルファン 2025」では、香水「牡丹-BOTAN-」のために描き下ろされた原画作品を展示しています。
この絵は、「牡丹」の新作のために特別に制作された一点。制作には、平安時代に源流をもつ唐紙(からかみ)技法が用いられています。唐紙は、和紙に顔料や雲母(きら)を摺り重ねて文様を浮かび上がらせる装飾紙で、襖や壁紙など室内装飾に千年以上の歴史をもつ伝統技法です。
唐紙の紋様は、尾形光琳や俵屋宗達など琳派の意匠とも深く関わり、金や真珠粉、雲母を砕いた「きら」を用いることで、光の角度によって文様が現れたり消えたりします。その“光と影の間に現れる美”は、谷崎潤一郎『陰翳礼賛』が描いた「蝋燭の揺らぎの中でこそ輝く美」とも響き合います。

白い紙に刷られた白いきら──光の加減でわずかに浮かび上がるその世界が、私の香水づくりの核にあります。香りもまた、目には見えず、空気とともに変化しながら、人の記憶に陰翳を描いていくものだからです。
今回展示している「壁絵」は、原画をプロのカメラマンが撮影し、高精細に再現した写真を大判ポスターとして壁面に設置したものです。光沢や陰翳の移ろいがそのまま伝わるように再現しており、原画と香りの世界を同時に感じていただけるよう構成しています。
ぜひ、原画と壁絵の前で香りを感じながら、お写真を撮ってください。PARFUM SATORIは、香りを通して日本の伝統文化を知っていただくことを願っています。この「牡丹-BOTAN-」が、その美の一端に触れていただくきっかけとなれば幸いです。
作者紹介
絵師:永井 聡(Satoshi Nagai)
唐紙技法を中心に、和紙・鉱物性顔料・雲母(きら)など、日本古来の素材を用いた作品を制作。平安以来の装飾技法を現代の感性で再構成し、光と影、静寂と華やぎのあわいを描き出す。
絵師としての矜持を持ちながらも、「自分は壁紙屋です」と語る。それは、伝統の技を日常の空間に生かし、人の暮らしの中に美を息づかせたいという想いの表れでもある。明治記念館「謁見の間」の唐紙修復など、文化財や歴史的建造物の再生にも携わり、古典の技を今に伝える数少ない職人の一人である。
補説:芸術と職のあいだにある美
日本では、明治以降、「職人」と「芸術家」の間に明確な線が引かれました。西洋のアカデミズム的ファインアートの価値体系が輸入され、「工芸=下位」「美術=上位」という序列が固定されたのです。
しかし永井聡氏は、その「境界の淡いに遊ぶ」存在です。西洋の美術教育を受け、ファインアートの思考を理解した上で、あえて唐紙という千年の技を現代に甦らせる。彼のもとには、海外のアーティストや研究者も訪れ、日本の装飾芸術に宿る構造美を学んでゆきます。
永井氏がご自分を「壁紙屋」と称するとき、それは謙遜ではなく、かつての日本にあった本来の芸術観――日常の中にこそ美があるという思想――への回帰なのです。
参考・出典
- 京都伝統工芸館「京唐紙の技法」
- 雲母唐長「制作工程」
- 京からかみ 丸二「唐紙の歴史」
- 谷崎潤一郎『陰翳礼賛』(1933年、中央公論)
発信:PARFUM SATORI(パルファンサトリ)/ 創業者・調香師 大沢さとり
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