水面に揺れる夢:スイレン-SUIREN-の香水とその物語

モネの庭と「スイレン-SUIREN-」の香水 2007年制作

イメージ

「スイレン-SUIREN-」の香りは、モネの庭に触発されて作られました。水面に揺蕩う、露を含んだ睡蓮の花。きらめく陽の光と木影の反射、風とさざなみ。刻々と変化する表情を眺める、うっとりとしたまどろみの時間をイメージしています。2007年制作。

インスパイア

 若いころ、「モネの庭」という写真集を枕元に置いて、毎晩眠りにつく前に眺めていました。この本を開けば、一瞬で別の場所にいるような感覚が広がります。例えば写真集のチューリップガーデンを開くたびに春の訪れを感じ、バラのトピアリー仕立てからは甘い香りが漂ってきます。藤の花が咲き乱れる太鼓橋のページでは、まさにその橋に立っている自分が浮かびました。そして、有名な睡蓮の池の光景では、心が静かに満たされていきました。

それから10年以上たって、ようやくジベルニーを訪れる機会に恵まれました。パリから観光バスに飛び乗って、高齢の女性ガイドさんのフランス語解説を聞きながら、期待で胸が高鳴ります。ジベルニーの停車場に降り立ち、モネの庭に向かう道すがら、心の中でずっと描いてきた風景が次第に現実のものとなっていくのを感じました。

庭に足を踏み入れた瞬間、夢にまで見た情景が目の前に広がっています。柔らかい光に包まれた風景。睡蓮の池は静かに輝き、湖面が風に揺れてささやきかけてくるようでした。その池のほとりに座り、夜明けから日没まで、キラキラと光る水面をぼんやりと眺めていたい。まるで時間が止まったかのような感覚に包まれ、心が穏やかになっていきました。

この思い出の深い景色を香りに表現したいという思いが強まり、ジベルニーを訪れたその年に、香水「スイレン-SUIREN-」が生まれました。

香調

最初のひと吹きで、まるで早朝の清々しい森の中にいるような感覚が広がり、心が洗われるような気分になります。爽やかでクリーンな睡蓮の池に、ブルガリアローズエッセンスが加わることで、ピンク色の花が咲きました。

時間が経つにつれて、優しいウッディムスクが漂い始め、穏やかな木陰の安らぎが現れます。バックグラウンドには、ほんのりと香るベビーパウダーの甘さが、子供の頃の無邪気な思い出を呼び起こします。

それはあたかも夏休みの避暑地で、本を読みながらうたた寝するような穏やかな香り。心に深いリラクゼーションをもたらすでしょう。

香料について

香水「SUIREN」はモネの池の情景から着想を得ていますが、中心となる香調は蓮の花の香気を基に作りました。大きな白い蓮の花の香りはオゾニックでウリのようなとろみのあるグリーン。

ピンクの蓮の花はまだ固い桃のようなカリッとしたフルーティグリーンです。いろいろな場所で蓮を見るたびに香りを確認したところ、種類によって少しずつ異なる香りを持ちますが、ウォータリーな要素は共通して感じられました。

そこで、これらの強く残った印象を香料に置き換えて、中心となる蓮のベースを調香しました。カロン、ヘリオナールなどのオゾン、マリン、シアーフローラルに、ユーカリを加えて透明感を際立たせ、ローズエッセンスで薄紅色をひとすじ。ミドルノート以降はまどろみのウッディとムスク、パウダリーで優しくまとめました。

印象派と香水

モネの睡蓮の絵は、ジベルニーで出会う前も日本の美術館、パリのオランジュリー、ニューヨークのメトロポリタンなど、世界中で見てきました。また印象派をテーマとしている小説もいくつも読み、心の中で描いてきました。

19世紀、日本からヨーロッパに渡って始まったのがジャポネスク。西洋芸術は影響を受け、そこからアールヌーボー、印象派へと広がって行きます。

芸術通の人からは「日本人は印象派が好き」と揶揄されるかもしれませんが、このルーツがジャポニズムにあるのであれば、好まれるのは当然のことのように思います。

淡く、光と色彩の微妙なニュアンスで表現した、輪郭や境界のない印象派絵画。それは「日本は曖昧模糊とした国」と言われる文化になじむように感じます。

そしてヨーロッパを起源とする香水は、日本に渡り、その精神文化にふさわしく変容を遂げました。いわば香水の印象派として「ジャパニーズパフューム」つまりパルファンサトリの香水があるように思います。

蓮とスイレンの違い

最後に、蓮とスイレンの違いについて説明します。

ハス(蓮)

  • 学名: Nelumbo nucifera
  • 葉: ハスの葉は大きく、丸い形をしており、水面から高く突き出ています。表面は撥水性があり、水滴が転がる特徴があります。
  • 花: ハスの花は大きく、華やかで、通常ピンク色や白色です。花は水面から高く立ち上がり、花弁が多く、開花時には非常に目立ちます。
  • 生育場所: ハスは泥地や浅い池などで育ちます。根は泥中にあり、茎が水上に伸びて葉や花が展開します。
  • 用途: ハスは観賞用だけでなく、種子(蓮の実)や根茎(蓮根)は食用としても利用されます。
佐原水郷植物園の白い蓮の花
蓮の葉は撥水性があり、水滴が珠になる

睡蓮

  • 学名: Nymphaea spp.
  • 葉: 睡蓮の葉は比較的小さく、丸い形をしており、水面に浮かんでいます。葉の表面は滑らかで、撥水性がない場合もあります。
  • 花: 睡蓮の花はハスに比べてやや小さく、多様な色(白、ピンク、黄色、青など)があります。花も水面に近い位置で咲きますが、種類によっては少しだけ水上に浮き上がることもあります。
  • 生育場所: 睡蓮は静かな水域(池や湖)で育ちます。根茎は泥の中にあり、葉と花が水面に浮かんでいます。
  • 用途: 睡蓮は主に観賞用として栽培され、庭園や池で美しい景観を作り出します。

主な違いのまとめ

  • 葉の位置と形状: ハスの葉は水面より上に高く伸び、睡蓮の葉は水面に浮かぶ。
  • 花の位置と大きさ: ハスの花は大きくて水面より高く、睡蓮の花は比較的小さくて水面に近い。
  • 用途: ハスは観賞用と食用、睡蓮は主に観賞用。

香水「スイレン-SUIREN-」のページ→スイレン 

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