イリス(IRIS)の香料:エレガントでパウダリーな香料の魅力

ニオイアヤメと呼ばれる、白花のイリスはフローレンス産のIris florentina

イリス(IRIS)の香料とは

香料の中で最も高価といわれるイリス(アイリス・ニオイアヤメ)。

イリスはアヤメの仲間で、香料用には地中海沿岸地方原産の特別な「イリス」の根茎を使います。根の生育には時間がかかり、乾燥熟成まで入れると収穫までに7年もの年月がかかります。採油率も低く、さらに何段階もの抽出法で純度を上げた最高級のものは1kg=1千万円するものもあります。

イリスはバラやジャスミンのような派手さこそありませんが、柔らかな光を表現するこの香料は調香師にとって宝石のように感じられる香りです。

イリスの種類

Iris florentina

ニオイイリスは、イタリア、フィレンツェで中世から栽培されてきました。白い花を咲かせます。

Iris pallida

同じくニオイイリスと訳されますが、地中海沿岸地方の高地に自生するイリスの一種で、紫や青の花を持ちます。その名の通り強い香りを持つことで知られています。

Iris germanica

ムラサキイリスは、ジャーマンアイリスとも言います。最も広く栽培されているイリスの一種で、特にその美しい紫色の花で知られています。紫色が一般的ですが、園芸品種には赤褐色、黄色、白、ピンクなど多様な色があります。地中海沿岸地方原産で、乾燥した土壌でよく育ちます。

Iris variegata

シボリイリスは、地中海沿岸地方原産のイリスの一種で、花びらに特徴的な縞模様があります。

イリス香料の製造過程

収穫と乾燥

イリスの根茎は収穫され、通常3年間乾燥させます。この乾燥過程で、香り成分が熟成します。

粉砕と蒸留

乾燥した根茎を粉砕し、水蒸気蒸留または溶媒抽出によって精油を抽出します。

イリスバターの生成

抽出された香料は、ミリスチン酸を含んだ固体であり、「イリスバター」と呼ばれます。このイリスバターは非常に濃厚で、冷却すると固体になります。

アヤメの根から取られたイリスの香料は固体です

イロンの含有量

イリスバターの品質は、含有するイロン(イリスの主な香気成分)の割合によって決まります。イロンの割合が高いほど、香料のグレードが高くなります。

イリスの香調

イリスの香料そのものは、ウッディ、パウダリーな香りです。新しいうちは酸味のあるグリーンが最初に感じられますが、次第に白木を割いたような乾いたウッディノートに変わり、いわゆるフローラルな要素はあまりありません。ムエットにつけた香りは、強い拡散性はないものの、穏やかに長く続きます。

イリスの香料には色々なタイプがあります。フランス、グラースの香料会社にて
さまざまなイリスの香料

香水の中の働き

イリスは香水にエレガントで温かみのあるパウダリーなテクスチャーを与え、ラストまできれいに続く香料です。それは間接照明を取り込んだような、「肌そのものが輝く」効果を出しています。これらは香りの背後からほのかに漂い、ムスクやスミレ調のパウダリーな香りとよく合い、さらっと乾いた、マットな光沢感をもたらします。

例えば、レオナール藤田(藤田 嗣治/日本生まれのフランスの画家・彫刻家)の絵の特徴である『乳白色の肌』。イリスの香りからは、この半光沢の滑らかなマティエールを感じられることでしょう。

イリスバターは調香師大沢さとりのお気に入りで、処方によく使われます。特に、シルクイリス(SILK IRIS)やイリスオム(IRIS HOMME)には他の香水に比べて多く配合されています。

イリスとアート

アイリスのモチーフは西洋、東洋の美術で繰り返し描かれてきました。変わった姿と色の美しさにインパクトがあり、創造力を湧きあがらせます。古くは宗教画に始まり、有名なゴッホの「アイリス」は、北斎の「あやめ」が影響を与えたともいわれています。そのほか、印象派のモネ、ミュシャのイラスト、テキスタイルなど枚挙にいとまがありません。

また、文学の世界でも、ヘルマン・ヘッセの短編小説「イリス」は繊細な描写でイリスの美の世界を表現しています。

メルヒェン/ヘルマンヘッセ→https://www.shinchosha.co.jp/book/200117/ 

アヤメとショウブとカキツバタ

いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)という諺(ことわざ)があります。それほど、これらの花を見分けることが難しく思うかもしれません。

大まかにいうと、アヤメは乾いた土地、畑で育ち、湿地に咲いているのはハナショウブです。

また、アヤメとショウブは同じ「菖蒲」という漢字をあてますが、端午の節句で飾る「ショウブ」とは見た目も分類も違います。5月5日にお風呂に入れるのはショウブ(Acorus calamus)の方で、サトイモ科の植物です。

上はアヤメ、下はハナショウブ

アヤメの仲間とその違い

 アヤメ (Iris sanguinea): 乾燥した草地に自生し、青紫色の花を咲かせる。

 イチハツ (Iris tectorum): 乾燥した草地や石垣に生え、紫色の花を咲かせる。

 ハナショウブ (Iris ensata): 水辺や湿地を好み、大きくて鮮やかな花を咲かせる。

 カキツバタ (Iris laevigata): 湿地や浅い水辺に自生し、青紫色の花を咲かせる。

 ショウブ (Acorus calamus): 湿地に生え、葉が長くて剣状。花は目立たない。

 ニオイアヤメからはイリスが、ショウブからはカラムスという香料が採られますが、カラムスは規制対象の香料で、今では使用されていません。

まとめ

イリスの香料は、そのエレガントで温かみのあるパウダリーな香りと、長い熟成期間を経て得られる希少性から、香水において特別な役割を果たしています。

シルクイリスやイリスオムをはじめとするパルファンサトリの多くの香水に使われているイリスは、調香師大沢さとりにとって宝石のような存在です。イリスの魅力を感じることで、香りの世界の奥深さと美しさを改めて実感できるでしょう。

イリスを使っているパルファンサトリの香水

シルクイリスのほか、イリスオム、ワサンボン、ヒョウゲ、ハナヒラクなど、多くの香水にイリスが使われています。

SILK IRIS

IRIS HOMME

イリス(IRIS)に関する記事