「ヒョウゲ-HYOUGE-:抹茶香水の魅力と秘密」

織部焼の抹茶茶碗は古田織部が考案しました

抹茶香水の魅力「ヒョウゲ -HYOUGE-」2008年制作

ヒョウゲ、それは物心ついた頃から慣れ親しんできた、茶室で感じる雰囲気や文化そのものを香りで表現したものです。こんにち、「日本の緑茶」は海外でも定番の飲み物となりましたが、私にとっての茶は「茶室で一服」。茶の味、畳の香り、静けさの中の湯の音、ほの明るさ。小さな空間に詰まった感性を香水にしました。2008年制作(織部)、2019年ヒョウゲに名称変更。

ヒョウゲモノ

「古田織部(ふるたおりべ/重燃)」は、千利休の高弟の一人で16世紀の茶人です。彼は千利休の茶道を継承しつつ「人と違うことをせよ」という教えを忠実に実行しました。大胆で自由な気風で、美の新しい価値観を茶の世界に作ったのです。

それは、当時の作庭、建築、焼き物などに「織部好み」という一大流行をもたらしました。しかしながら400年も前にデザインされたにもかかわらず、代表的な濃い緑と黒の焼き物は今なおモダンです。

また古田織部と同時代を生きた茶人、博多の豪商神谷宗湛(かみやそうたん)も、その斬新な織部焼を称賛しました。彼の茶会記、『宗湛日記(そうたんにっき)』には「セト茶碗ヒツミ候也。ヘウケモノ(ヒョウゲモノ)也」と記述されています。

そのうち「ひょうげもの」は織部自身をも指し、今ではその異名もよく知られるようになりました。香水の名前「ヒョウゲ-HYOUGE-」は、この諱(いみな)から取りました。

  

着想

日本ではペットボトル入りの緑茶が1992年に売り出され、急須で入れるリーフティよりも簡便に飲めるということで2004年ころまでに急成長しました。どちらかというと、当時は飲みやすさ、まろやかさなどを強調し販売されていたと思います。

その頃から、甘さより日本のお茶にある渋み、苦味、旨味まで表現した香りに挑戦したいという気持ちが私の中に芽生えました。特に、茶葉を挽いて粉にした「抹茶」の香水を。

さらに、お薄茶を点てた時の泡立ちまでも表現したいと考えました。

ヒョウゲの香調

「ヒョウゲ-HYOUGE-」はわずかに苦く、シス-ジャスモン(cis-Jasmon)が効いています。これはジャスミンノートに入る単品香料ですが、渋みと苦みを感じさせます。そして、「旨み」としてバイオレットリーフを少し入れています。バイオレットリーフの香調はキュウリっぽいといわれますが、乾物の、例えば昆布出汁の匂いが感じられます。

さらに、すっきりとしたグリーンだけでは少し膨らみが足りないので、フローラルを合わせてボディ感を出しました。

実は「茶の木」と「さざんか」、「椿」は同じツバキ科の植物です。サザンカは晩秋に咲き、椿は春にかけて咲きます。そしてお茶の花が咲くのは12月で、白い小さなツバキのような可憐な花です。

茶の花は香りも良く、サザンカの香りに近い、ヘディオン(Hedion)という香料の匂いがします。一方でヘディオンはジャスミンの香りの共通要素でもああります。したがって「ティーノート」と「ジャスミン」の香りは合いやすいと考えました。

そこで処方に天然のジャスミンabs.を足して、花のボリューム感を出しました。また、お薄茶(うすちゃ)を点てた時の泡立ちとパウダリー感のために、イリスバターを入れています。他にも様々な天然香料が入り、単調になりやすいグリーンタイプに複雑さを与えました。

緑茶、ことに抹茶はさわやかさと苦味と旨味のバランスが良さであり、豊かさであると思います。

さとりの香水世界

パルファンサトリのシグニチャーフレグランスの「さとり」。この香りは沈香木の再現のみならず、「和室の清浄な空間、そこに入る人の佇まい」をも表現したいと思いました。

そして同様に、「ヒョウゲ-HYOUGE-」の香りも、ただ爽やかなだけのグリーンティとは一味違う、本当の日本の茶の香りを作りたい。さらには「茶を点てて振る舞う心のありよう」まで捉えたかったのです。

グリーンティータイプの流行とその影響

ヴァン・ヴェール(ピエール・バルマン)が1946年に発売されて以来、グリーンタイプはグリーンを強調したり、フローラルやシトラスに振れたりしながら今日まで続いてきました。

その中で、緑茶ノートの香水は1990年頃から始まったとされています。1999年エリザベスアーデンの「Green Tea」は、緑茶の香りをテーマにした新しいグリーンタイプとして注目されました。しかしその香りは「グリーンティ」というカタカナをあてるのがふさわしいもので、香調は爽やかで透明感があります。日本人の自分から見れば、むしろレモンティに近いと感じました。

その後も、緑茶を謳った香水のヒット作が続きました。もちろん、緑茶イコール日本茶とは限りません。中国緑茶は、水色が淡黄色で苦みも薄いです。(中国には緑茶、白茶、黒茶、紅茶、青茶があります)

30年前、フランスの家庭で「グリーンティ」といって出されるお茶は中国緑茶に近く、日本人が馴染んだみずみずしい緑や香りとは異なるものでした。

逆に、日本に来た外国の人に抹茶を出しても「苦すぎる」と当時は人気がなく、砂糖をくださいと言われたことがあります。

それに抹茶があまりにもきれいな緑色をしているので、「てっきり着色していると思った」とフランスの人が言うのを聞いてびっくりしたこともありました。

最後に

抹茶の香水「ヒョウゲ」は、古田織部の精神を受け継ぎながら、日本の茶の文化とその香りを反映しています。深みと複雑さを持ちながらも、さわやかさと苦味、旨味のバランスが絶妙。茶道の精神と、美的感覚を香りで楽しむことができます。「ヒョウゲ-HYOUGE-」は、日本文化に興味を持つ全ての人におすすめします。海外での評価も高い作品です。

ヒョウゲ-HYOUGE-の評価

「ヒョウゲ(旧:Oribe)」は、世界的に名高い香水評論家ルカ・テュリンが執筆した「香水ガイドⅢ」で、4つ星の評価を受けています。匂いの帝王とも呼ばれる彼からの高い評価は、この香水の品質と魅力を象徴しています。

ヒョウゲ

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