『のびやか』とは、「振る舞いなどに束縛がなく、あるがままで、ゆったりしているさま」
――小学館 類語例解辞典 より。
NOBIYAKA 、この香りは、そんな“のびやかさ”を香りで表現するために生まれました。 ここでは、インスピレーションから制作に至るまでの道のりを紹介します。
香りのスケッチ ― インスピレーションの源
香りのインスピレーションを視覚化するために、まずスケッチから始めます。
この絵は「 NOBIYAKA -ノビヤカ-」の最終段階のラストスケッチです。
絵の中央にあるのは、サフランの火山。 球根は割れ、芽はぐんぐんと伸び、花、蕊、そしてシュンシュンと葉が天へ向かって伸びていく。 天上に広がる雲海はムスコンの香り。そこを琵琶(ビワ)を持った枇杷天女(びわてんにょ)がふわふわと飛び回ります。
明るくて、開放感があって、心がのびやかに弾むような香り――それが、このスケッチのイメージでした。

時代背景― 「 NOBIYAKA 」に込めた願い
コロナ禍により、閉塞感のある世界が3年続きました。 社会が少しずつ動き出したころ、人々の開放感を後押しするようなワンプッシュを届けたい――そんな思いから、この香りが生まれました。
香水の制作では、タイトルが先に決まることもあれば、香料の組み合わせからタイトルが導かれることもあります。 「のびやか」は、願いのイメージが先に浮かんだ作品でした。
2023年、皆様の気持ちが“のびやか”になりますように。
香調とイメージ設計
タイトルから広がる香調キーワード
- アクアティック フローラル フルーティ
- オゾン マリン フルーティ
- ウォータリー オゾン フルーティ
- シアー フローラル
香りのコンセプト
「クリーンだけど、シンプルでありきたりではない。 肌の上で広がり、微妙なニュアンスが感じられる香り」。 これが最初のラフデザインでした。

デザインの始まり ― サフランとの出会い
アクアティックなイメージを持つロータス(ハス)の習作を始めた直後、 国産の「AKAITOサフラン®」香料を紹介されました。
食の世界で最も高価なスパイスであるサフラン。 その香りは面白いものの、扱い方には悩みました。
サフランの主産地は中東で、他ブランドの多くはダークでヘビーなオリエンタル調。 そこで逆に、「国産の最上級サフランなら、繊細な和食に合わせるように、 透明感ある香水に仕立てるのがふさわしいのでは」と考えました。

香りの構築 ― 枇杷と梅の調和
ロータスのクリーンなベースは、他の香りを支える“出汁”のような存在。 トップにはフルーティなフィグ(いちじく)を思い浮かべましたが、 ステモンによる青臭さが苦く、ラクトンのミルキーさで白濁してしまいました。
そこで、よりクセのない日本の果実「枇杷(ビワ)」に変更。 枇杷は花も果実もアニス系の香りを持ち、 特にアニス系香料カントキサールは、枇杷を食べたときに感じる香りに近いものでした。
処方を重ねる中で、香料の過不足を整え、透明感を保つことを意識。 足したり引いたりを繰り返すうちに、ぼんやりとした香りの輪郭が徐々に形を成していきます。
ラストまでフローラルとムスクが透明なまま続くように、 サンダルウッドを隠し味としてわずかに加えました。
もうひといき“香りにフック”が欲しい――そう思い、調香台のボトルを探すうちに出会ったのが、 黒糖梅酒のような香りを持つダバナ(DAVANA)。 梅のような温かみが、香りに柔らかな深みを与えてくれました。
枇杷、サフラン、梅酒。 この3つの香りが重なったとき、充分な広がりと心地よさが生まれました。
仕上げ ― 「 NOBIYAKA 」な瞬間
最後に微量のL-ムスコンを加えた瞬間、 トップノートがポンポンと弾けるように香り立ちました。
みずみずしさ、解放感、のびやかさ、そしてはずむ心。 目の前のスケッチが、色と映像となって動き出した瞬間でした。
――2023年5月発売。
大沢さとり
パルファン サトリ 創業者・調香師。
香りにまつわる素材や香水の制作背景を、少しずつお届けしています。
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