名前の由来と背景
「MOTHER ROAD」は、アメリカのロサンゼルスからシカゴを結ぶ国道「ルート66」の愛称です。
スタインベックの小説『怒りの葡萄』の中で、“The Mother Road”と表現されたこの道は、かつて希望を求めて西へ向かった人々の象徴でした。
1960年代、日本ではアメリカのテレビドラマやジャズが一つの憧れとして親しまれ、「ルート66」という番組と歌は、自由で豊かなアメリカを象徴する存在でもありました。
私自身は、このドラマが日本で放映され、曲が流行した1960年代初頭はまだほんの子どもでした。でも、戦後の自由な文化に憧れた先輩たちに影響を受け、その気配を感じながら成長していったように思います。
そんな記憶のイメージとともに、「MOTHER ROAD」とつけたのは、たんに語感だけでなく、日本の時代を作ってきた文化の一端を香りに留めたかったからです。
名前にまつわる、もうひとつの物語
「MOTHER ROAD 66」という名前には、もうひとつ小さな逸話があります。
当初、「ルート66」という名前を香水に使うことを考えていたのですが、当時は他社がその商標を保有していたため、使用を断念せざるを得ませんでした。そこで、文学的でありつつ、自由な旅路の象徴でもある「MOTHER ROAD」という名前に決めたのです。
その後、数年経ってから商標の権利が放棄されたことを確認し、すぐに取得の手続きを行いました。
けれど、その時にはすでに「MOTHER ROAD 66」という名で多くの方に覚えていただいており、「むしろこの名前の方がオシャレ」と言ってくださるお客様の声もあって、改名は行わず、今に至ります。
香りの特徴と調香
香り自体は、イタリア産のシトラスと、フランス産のハーブを組み合わせた、フレッシュで明るいトップノートで始まり、洗いたての白いコットンシャツを思わせるような、清潔感のあるほのかな香りに変化していきます。「乾いたコットン」のような心地よさは、日本の多湿な気候や、きれい好きという気質にも受け入れやすいように思います。
男性香水のパイオニアとして
2000年代、いわゆる“加齢臭”という言葉が話題になり、ミドル世代の男性たちにも、身だしなみや香水への関心が高まり始めた頃のことです。
しかし、まだ「男が香水なんて」「デパートに買いに行くのは恥ずかしい」といった風潮が根強くありました。
そんな中、ご縁があってある男性向け通販雑誌で取り上げていただけることになりました。
「香りがわからないのに、通販で本当に売れるのか?」と、社内でも慎重な意見があったそうですが、企画担当の女性が「これは絶対に行ける!」と力強く推してくださり、誌面で大きく取り上げていただけることになったのです。
実は、その雑誌にとっても、初の男性用香水の取り扱いだったとのこと。
掲載後、予想をはるかに上回る注文が入り、追加発注に次ぐ追加で、上層部が驚くほどの反響となったそうです。

赤いラベルに込めた思い
最初に販売したときの、四角い赤いラベルは、アメリカンポップなデザインです。
発売当時の40〜50代のお客様には、どこか懐かしいアメリカの雰囲気を感じていただけたのかもしれません。
香りはもちろん、こうした視覚的な印象も含めて、「ご自分らしい香水」として長くお付き合いいただけたことを、とても嬉しく思っています。
著名人のエピソード
この香水は、バンド『アリス』の矢沢透さんにも、2009年から長年ご愛用いただいています。
全国ツアーの合間を縫ってお店に立ち寄ってくださった際には、
「これ、あんまり強くないし、ないしょ話するときにちょっと匂うのがいいんだよね。あと、ハグするときとかさー」
と笑いながら話されていたのが印象的でした。
「そもそも遠くまでプンプン香るのって、ちょっとやじゃない?やたらにモテたいんじゃなくて、親しくなった子に、近づいたとき“あ、いい匂い”って思ってもらえたら、それでいいんだよ」
そんな言葉にも、矢沢さんらしい優しさとナチュラルな魅力が感じられます。
※このときの様子をブログにも記録しています
➤ アリスの矢沢透さんと「MOTHER ROAD」のエピソードを綴ったブログ記事はこちら

ある時期、男性向けの香水は「モテ香水」として、センシュアルな香りがよいと思われていました。しかし、それは親しくなった間ならまだしも、初対面では圧迫感を伴うこともあり、女性にとっては思わず引いてしまうことも。ほのかに、どこからともなく香る方が、むしろもっと魅力的なのではないか、と私は思います。
若い世代とのズレと笑い
試しに検索してみると、今の若い世代にとって「MOTHER ROAD」という言葉は、ゲームやアニメ、コミックなど、まったく別の文脈で使われているようで、ちょっと笑ってしまいました。
英語名の香水について
パルファンサトリには「日本の香り」というテーマで、和の名前を使ったラインナップが多いです。しかし、『MOTHER ROAD』は英語名ではありながら、確かに日本の時代を作った文化の一部であると思います。
また、子供のころから親に連れられて海外の風物を見たり、本の中の憧れとしての外国がありました。これも私の一面として、いくつかの香水名も英語の名前で存在しています。

そして17年、変わらぬ香り
2000年に個人で始めたパルファンサトリは、このヒットを機に、2009年に法人化され、現在17期を迎えました。
香水「MOTHER ROAD」は、当初掲載されたその通販雑誌、「ライトアップショッピングクラブ(旧:ソニーファミリークラブ)」で、いまもロングセラー商品としてお取り扱い頂いています。
2024年からは、同誌のアンテナショップ全店舗でもお取り扱いいただき、従来とは異なる世代のお客様にもご好評をいただいています。
世代と性別を超えて、広がる愛用の輪
発売当初は、「香水を使ったことのない男性の、ファーストフレグランス」を想定してご提案していました。
けれど間もなく、「奥様やお嬢さまに勧められて使い始めた」「夫婦で一緒に使っています」といった声が寄せられるようになり、やがて、若い女性のお客様にも自然に受け入れられていきました。
今ではデパートや@コスメなどの店頭を通じて、若い世代や海外のお客様からも好評をいただいており、流行の移り変わりが激しい中で、こうして世代を超えて長く愛されていることを、心からありがたく思っています。
最後に・・・
香りは、人の記憶や人生と深く結びつくものです。
「MOTHER ROAD」という一本の香水が、誰かの人生の“旅路”にそっと寄り添っていられるなら、これ以上の喜びはありません。
大沢さとり
パルファン サトリ 創業者・調香師。
香りにまつわる素材や香水の制作背景を、少しずつお届けしています。
▶お買い物ページリンクパルファンサトリ香水 マザーロード66