四季のお花

日本には四季があり、私たちは衣食住のあらゆる面で四季を感じながら生活しています。

四季がある国は他にもありますが、日本では特に生活文化と深く結びついていて、季節行事や行楽、二十四節気(立春・夏至・冬至・秋分の日といった季節を表す言葉)、旬の食材を生かした料理に至るまで、様々な場面で意識する機会に恵まれます。

そして普段よく目にする「花」もまた、季節の移り変わりを感じさせてくれる存在です。

特にこの原稿を書いている5月は色とりどりの花があちこちに咲き、外を歩く時間をいっそう楽しいものにしてくれています。
知らない植物はGoogleレンズで調べることがすっかり日課となりましたが、ただの雑草だと思っていたものにもれっきとした名前があったり、思いもよらなかった匂いがしたり逆に無臭だったりと、多くの発見があります。

花の香りはパルファンサトリの全ての香水にも含まれていますが、中でも下記の香水は、それぞれのストーリーに寄り添いながら花が持つ美しさ・儚さなどを存分に感じられる香りです。

・ソネット(金木犀)…ノスタルジックな秋の余韻を金木犀に乗せて

・ネム(合歓の花)…柔らかなシルクの毛布に包まれる幸福感

・サクラ(桜)…淡いピンクの花霞の美しさ、風に舞う花びらの儚さ

・スイレン(睡蓮)…夏の夜明け、透明感あるグリーンが誘うまどろみの時間

・夜の梅(梅)…切ない恋心は夜の梅となり、ミステリアスに、妖艶に

・紫の上(ジャスミン、ミュゲ、ローズ)…現代に羽ばたく可憐で知的な源氏物語のヒロイン「紫の上」

・シルクイリス(アイリス)…繊細なアイリスが月の光となって素肌から香り立つ

トライアルセット「お花」

今回はそんな、私たちの心を癒し楽しませてくれる「お花」と「季節」の関係に着目してみたいと思います。

日本における四季

季節感の確立は、6世紀頃に朝鮮半島の百済から中国暦が伝わり、暦が生活に定着したことが一因とされています。
それまでは単に「暑い」「寒い」「過ごしやすい」といった ”何となく” の感覚だけで過ごしていたのかと思うと、カレンダーありきの現代では想像もつきませんよね。

日本人は昔から四季に対する思い入れが強かったようで、万葉集や古今和歌集、新古今和歌集にも季節が詠まれた歌がたくさん収められています。

面白いのは、万葉集では「季節の到来を歓ぶ歌」が多く、平安時代では「散りゆく桜やもの悲しい秋の景色を思う歌」が多いということ。
なぜなら万葉集では、「季節を楽しむ宴の場」で作られた歌が多く、宴との関係が深かったと考えられているからだそうです。
(※諸説あります)

楽しい宴の場と歌がセットとなれば、必然的に明るい歌が作られるのも納得。
現代のお花見やカラオケにもそのDNAはしっかり受け継がれているように思います。

四季によって咲く花が違う理由

開花のメカニズムは完全に解明されていない部分もありますが、主な理由として以下のようなことが考えられています。

●気象条件の違い

花の開花時期は気温や日照時間、湿度などに合わせ、それぞれの植物にとって最適な時期に咲くようプログラムされています。

例えば桜は、前年の夏に花芽を形成し、秋から冬にかけて休眠状態に入ります。
そして冬の寒さに晒されることにより目を覚まし(これを休眠打破と言います)開花の準備を始めます。そうすると花を咲かせるのがちょうど春になるというわけですね。
冬が暖か過ぎると休眠打破がうまくいかずに開花が遅れたり、花の数が少なくなったりすることもあるようです。

ヒマワリは暑さに強く日光が大好きです。
夏は日照時間が長く光合成が活発になるだけでなく、太陽のエネルギーを浴びると「オーキシン」という成長ホルモンを生成し茎の成長を促します。
ヒマワリが暑い中でも元気いっぱいに咲いているのは、夏の太陽があってこそ。

金木犀は夏に花芽が作られ、ある程度気温を下回ると開花が促進される仕組みとなっているようです。
花は通常1週間ほどで散りますが、気象条件によっては再び花芽をつけて二度咲きすることも珍しいことではありません。

椿はもともと南方にルーツがあり、本来暖かい場所を好むことから休眠の眠りがとても浅いそうです。
9月頃から休眠に入りますが、ちょっとした気温の変化で眠りから醒めてしまうので、真冬に少しでも暖かい日があると目を覚まし、花を咲かせてしまうのだとか。

その季節に咲くべくして咲く理由が、ちゃんとあるんですね。

●花粉媒介者の違い

気象条件だけでなく、花粉を運んでくれる相手(風、水、昆虫、鳥など)の活動時期に合わせて開花することも挙げられます。

花粉が風によって運ばれて受粉する花を「風媒花」、水の場合は「水媒花」、虫だと「虫媒花」、鳥だと「鳥媒花」と言いますが、春夏はミツバチや蝶が活動する時期なので虫媒花が多く、秋冬は虫が減るため風媒花が多くなります。

また、他の植物と重ならない時期に咲けば目立ちやすく、虫に見つけてもらいやすいという “ライバルの少なさ” を見計らって開花タイミングを調整していることも。

例えば金木犀が咲く秋は、他に強い香りを放つ花が少ないため、芳香がより際立ち虫を引き寄せやすい。
福寿草など春先に咲く花は、まだ他に花が咲いていないため競走が少なく虫に見つけてもらいやすい。
など、巧妙な開花戦略がなされているんです。

花の香りや色の意味

花の香りや色にも同じく、受粉を助けてもらうための巧妙な戦略が隠されています。
良い香りも美しい色彩も、もちろん私たち人間を喜ばせるためではなく、虫や鳥を引き寄せて花粉を運んでもらい受粉するため、つまり子孫を残すためにあります。

[ 春 ]
◎花:桜、桃、ツツジ、梅、木蓮、タンポポ、スミレ、藤など

◎香り:強すぎない香りで、冬眠から目覚めた昆虫を心地良く誘います。

◎色:ピンク・白・黄色など
→春に活動するミツバチや蝶は特に黄色や白に反応しやすいため、明るい色で虫を誘き寄せます。

◎花粉媒介者:ミツバチ、蝶、アブ、カメムシ、ハムシなど


[ 夏 ]
◎花:ジャスミン、ヒマワリ、クチナシ、アサガオ、紫陽花、ラベンダーなど

◎香り:濃厚な香りと豊富な蜜で、暑さに強く活発に飛び回れる虫たちを引き寄せます。

◎色:赤・オレンジ・濃いピンク、青、紫など
→強い日差しの下では、光の反射や眩しさにより虫が色を識別しにくくなることがあるため、目立つ色が多くなると考えられます。

◎花粉媒介者:ミツバチ、蝶、カナブン、蛾など


[ 秋 ]
◎花:金木犀、彼岸花、コスモス、菊、ダリアなど

◎香り:虫が減り始めるので目立つ工夫が必要で、群生したり、小ぶりでも強い香りを放つ傾向があります。

◎色:深い赤、濃いオレンジ、黄金色など
→日差しが柔らかくなるため、よく映える暖色で減っていく虫たちにアピールします。

◎花粉媒介者:ミツバチ(少数)、蛾、コオロギなど


[ 冬 ]
◎花:椿、サザンカ、ロウバイ、水仙など

◎香り:寒さの中で際立つ香りや、遠くにいる虫を呼ぶために強い香りを放つものも。
◎色:白、クリーム色、赤など
→虫が少ないため、風媒花や自己受粉を使う植物が多くなります。

◎花粉媒介者:風、鳥、自己受粉など

椿にはあまり香りがありませんが、それは主に鳥(特にメジロ)が花粉媒介者だからです
鳥は色や形、大きさなどを頼りに花を探すため、香りでアピールする必要が無いのです。


また、夕顔、月下美人など夜に咲く花は白系のものが多いですが、それは月明かりの下でも目立ち、夜行性の花粉媒介者に認識してもらうため。強い香りが多いのも同様です。

花の美しい色や香りは、過酷な自然界を生き抜き、子孫を残していくために必要不可欠なものだったんですね。

番外編として、サトイモ科の植物の中には大便のような悪臭を放つものもありますが、これは花粉運びをハエのような昆虫に依存しているからだそうです。

春はパステルカラー、夏はビビッドカラー、秋は深みのある暖色系、冬は低彩度の落ち着いた色、と、花の色はシーズンごとのファッションやメイクにも大きく反映されているのも面白い点ですね。

花への想い

私たちは花に対して「華奢」「可憐」「繊細」といったイメージを抱きがちですが、実際には生きるために様々な工夫を重ね、進化してきた力強い存在であるということもわかりました。
雨の日も風の日も、ほんの僅かなコンクリートの隙間からでも、一生懸命に咲く姿はとても逞しく勇気づけられるものです。
花の成長や再生のサイクルを人生に重ねてみたり、綺麗に咲く花を見て明るい気持ちになるのはもちろん、生命の息吹や始まりを予感させる蕾を見てワクワクしたり、枯れゆく花を見ると命の尊さを実感したり、個人差はあれど人は花に対して感情移入しやすいように思います。

人の一生も花のように、強く美しく咲かすことができれば最高ですね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

植物から採れる天然香料は香水にとっても欠かせないものですが、香粧品以外の分野においても人々は植物から多大なる恩恵を受けて暮らしています。

香水もまた季節の花のように、皆様の日々の暮らしにそっと寄り添うものであれば嬉しく思います。

※花の色は、とても複雑な要素が関係して決定づけられています。ここでは簡略にとどめましたことをご了承ください。

ニックネーム:K.S
プロフィール:パルファンサトリ フレグランススクール1級卒業。アトリエやPOP UPにて、時々接客もさせていただいています。