苔の種類
苔類は四億年の歴史を持つ、あらゆる植物の祖先です。世界中には一万種類を超えるとか。
中でも日本は雨が多く、湿度も高いため苔がよく育ち、約1,800種が自生すると言われています。日本庭園でもよく利用される身近な植物、苔そのものを鑑賞し愛でる習慣は、日本独自の文化かもしれません。
香調とイメージ
水分をたっぷりと含んだ土の香りと、淡いグリーンの香り。苔の香りに意識を向けると、樹間をほとばしる湧水の流れや苔むす岩、屋久島のような豊かな自然の中に流れる清流などにいるような、深く呼吸をしたくなる、そんな気持ちの良さを感じられる。この気持ち良さを、香りで再現したいと思いました。
日本の清流、生い茂る木々、さらさらと葉が奏でる音。森の中を歩き、ラッキーな日ならば、自生の柑橘に出会うかもしれません。自然の中をのんびりと歩き、一呼吸。
デザインとコンセプト
苔清水のキーワードは、「清涼な湧き水と、石に付く苔」
湿った土のにおいのする森のひんやりした空気を表現したいと思いました。
香りの構成
シプレータイプは、モス(苔)とパチュリとベルガモットを骨格とした香り。
クラシックなこのタイプは重く暗いものが多いです。そこで苔清水では、オゾンノートやシトラスを多めにしました。明るくクリーンな香りに仕上がりました。
使用した香料について
実はこの香りの素材はムスクが3割を超えています。しかしながら、多くの人が持っているムスクのイメージはあまり感じられないのではと思います。
ムスクを大量に入れるとアニマリックになることもあります。一方、香料の組み合わせによっては清潔感を出すこともできます。
また、苔清水の中には、天然のオークモス香料を使っていません。
天然のモスの香料は、ベルベットのようなテクスチャーを持ち、渋みや深みといったニュアンスを出します。反面、泥くさい特徴もあります。
重厚なフローラルやオリエンタル、壮麗なオーケストラといったような香りを作る場合には、素晴しい効果を出します。
しかし、「苔清水」はいわば自然音のせせらぎや樹間の風の音などを奏でたいと思いました。そこで洗練された合成のモス「メチルアトラレート」を使うことにしました。この香料は、白く、ややダスティで、微細な水滴が凝縮した、もやっとした霧のような香りです。s
天然オークモスは、皮膚に有害とされる「エベルニックアシッド」が含有されているため、今では、イフラの香料規制により禁止されてしまいました。それを見越したわけではありませんが、必然があって合成モスを使用しました。結果として、この香水の処方を維持できたことはよかったと思います。
自然の香り
他に組み合わせた森林浴のベータ・ピネンややわらかい柑橘は、自然を感じさせるおいしい空気。そこに、アクア・オゾニックな香料が加わり、水に潤う苔を表現しています。
開発の背景
苔清水は2007年に作られました。森林の中、苔むした岩の間から清冽な湧水があふれ、木漏れ日がきらきらと反射する。
最初は作りたい情景が浮かび、ふさわしいのは明るいシトラスシプレータイプだと考え、香料をセレクトしました。名前は、途中まで石清水(いわしみず)にするか苔清水にするか迷いました。
最後に苔清水にしたのは、私が無機物の「石」よりも「苔」という植物が好きだったからでしょうね。