思い出が蘇る:キンモクセイの香水「ソネット-SONNET-」

キンモクセイの香水の誕生

その背景

2011年3月11日、東日本大震災が発生したその年の秋、新しい香水「ソネット」は誕生しました。この香水は、日本中が暗く沈んだ空気に包まれる中、「絆」や「家庭回帰」という言葉が世の中に共鳴していた時期。

本来は異なる香りを発売する予定でしたが、その年には特別に「祈り」という思いを込め、新たな香り「ソネット」を世に送り出すことにしました。

インスピレーション

「ソネット」は、幼少期の温かい記憶を呼び覚ます香りです。

親や祖父母、さらには次の世代まで、この花の香りが心地よい思い出として受け継がれることを願い創り出されました。

続く詩は、そんなごく平凡であたりまえの、平和な日常のいちシーンを描いた情景です。

イメージ:キンモクセイの小さな詩

Sonnet(ソネット)

橙色の星の花を  白いハンカチに包んで
私と似た面差しの  6才の少女が笑っている

夕暮れ時の透明な日差しが  部屋の奥まで伸びて
花の香りが呼んだから  庭のテラスへおりてみた

花は時を告げるように  季節とともに巡ってくる
追憶のとき  少し褪せた家族の写真に

思い出が韻を踏んで  幾世代も訪れる
くり返し  ソネットのように

ソネットという香水名の由来

「ソネット」とは、もともと「小さな詩」という意味であり、イタリア風、フランス風、イギリス風のソネットがあります。

この香水に名前を付けた際、シェイクスピアの定型叙事詩である14行詩に寄せて、より柔らかいイメージの詩に託しました。

中心に据えたのは、オスマンサス(金木犀)の香り。詩的な表現として「韻を踏む」ことを意図しました。

香調

タイプ フルーティ・フローラル
トップはマンダリンのシトラスと、クラリセージのティーノートから爽やかに始まります。

そして中心の香りであるオスマンサスAbs.と甘酸っぱいネクタリンピーチが、フローラルの広がりと柔らかさを与え、豊かな秋を感じさせるでしょう。

ラストノートはサンダルウッドの温かみを残しながら消えていきます。

トップノート スイートオレンジ、マンダリン・イエロー
ミドルノート オスマンサスabs(金木犀)、クラリセージ、バイオレット、ローズ
ラストノート サンダルウッド、ボワ・ド・ローズ

南仏の市場でネクタリンピーチを買いました

ピーチノート

ソネットの香りには、金木犀の自然なピーチに似た香りを取り入れています。

しかし、シルクイリスで使用された繊細な白桃ベースではなく、より豊かで甘酸っぱいネクタリンピーチを選びました。

クラリセージ Clary sage

クラリセージはハーバルでアロマティックな香りを持ち、そのスモーキーなニュアンスが紅茶の豊かな香りを思い起こさせます。

キンモクセイの自然な香りを忠実に再現しつつ、特有の脂肪臭をティーの要素で繊細にマスキングしています。

この独特な配合により、ソネットは自然な印象を保ちながらも、清々しく爽やかな香りへと仕上がっています。


キンモクセイ(金木犀)の香りの特性 osmanthus

キンモクセイの香りは、他の花々と比較しても特に遠くまで届くことで知られています。

バラやタイサンボク、ジンチョウゲ、クチナシなども風に乗って遠くまで香りますが、キンモクセイはその中でも際立っています。

一輪は小さいながらも、数が多く一斉に咲くため、その香りは強く感じられます。実際には、一房のキンモクセイだけでも十分な香りがします。

香りの成分とその効果

キンモクセイの香りは、以下の三つの主要成分によって特徴づけられます

・γ-デカラクトン(γ-Decalactone):フルーティーな香りを提供し、甘く魅力的な印象を与えます。
・ベータヨノン(β-Ionone):ウッディでパウダリーな香りが、深みと複雑さを加えます。
・リナロール(Linalool):自然界に広く存在し、さわやかな香りをもたらします。


これらの成分が絶妙にバランスを取ることで、キンモクセイの香りは驚くほど遠くまで届き、その拡散性が高まります。分子量が大きく重たいラクトンや、単独では遠くまで届かないヨノンも、リナロールとの組み合わせによってその効果を発揮します。

このような複雑な香りの組み合わせが、まるで「香りの妖精」のように働くとも言われ、その不思議な特性については、専門家の間でも活発に議論されています。

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