今回は、実はとてもわかりにくい複雑な「香りの強さ」についてと、香りが心に残る仕組みをめぐる小さな試み について書いてみたいと思っています。
コンテンツ
- 「同じ香りでも、条件次第でまるで別物に」
- 「人によって“強い”が違うのはなぜ?」
- 「“強さ”の測り方もいろいろある」
- 「実際に体験した“香りの強さ”の3つのシーン」
- 「ずっと香るより、“ふと香る瞬間”が心地よい」
- 「上手に香りをまとうためのヒントは?」
- 「香りはシーンを特別にする“隠し味”」
- 「感情が動いた瞬間が、記憶になる?」
- 「香りが“フラグ”になる可能性?」
- 「香りが情緒を育てる?」
- 「一瞬でよみがえる“あの日の記憶”」
- 未来に残したい瞬間に、香りを添えてみては?」
「同じ香りでも、条件次第でまるで別物に」
例えばフレグランスを例にとってみましょう。フレグランスは音楽のように時間とともに変化します。どの段階を切り取るかで、強さの印象は大きく変わります。
さらに、同じ香りを同じ量つけても、その濃度やつける場所で香り方が変わります。
気温も影響し、夏は香りが立ちやすく、冬は穏やかに広がるため、同じ香りでも印象が変わるのです。
「人によって“強い”が違うのはなぜ?」
人は苦手な香りには特に敏感に反応します。甘さひとつとっても、花や果物のような甘さを好む人でも、砂糖菓子の甘さは“強すぎる”と感じる人もいます。
また、香りの強弱の好みは人それぞれで、ほのかさを好む人にとっては、しっかり香らせるのが好きな人の香りが強く感じられることもあります。さらに、場や文化によって「許容される強さ」も変わります。
加えて鼻には「順応」という働きがあり、同じ香りを嗅ぎ続けると感じにくくなるため、ますます一概には言えないのです。
「“強さ”の測り方もいろいろある」
つまり、「強さ」という一つの指標だけで香りを測るのは難しいのです。
専門家の立場では、香りが人に知覚される“感じやすさ(閾値)”、広がりやすさ、残りやすさなどを、複数の手法で測定し、分析や商品開発に活かしています。
けれども、日常生活で大切なのは数値ではなく、体験の積み重ねです。「このくらいで香ってほしい」というイメージは、使う人の経験から育っていきます。私自身も、成功や失敗の体験から学んだ感覚を頼りにしています。
今日はそんな体験を例にしながら、「香りの強さ」とどう付き合い、工夫できるかを一緒に考えてみたいと思います。

「実際に体験した“香りの強さ”の3つのシーン」
ケーススタディ1:広がりすぎてしまった日
9月初めの蒸し暑い夕方。ソネットのオードパルファンを両脇腹へ、朝軽く2プッシュ、夕方出かける時には改めてスプレーを最後まで押し込む程度の2プッシュをしました。
私自身、歩いている間中香りがふわふわ感じられていましたし、「金木犀が咲いているのかしら?」と、話しながら一緒に歩いていた知り合いがあたりを探し始めました。そして、その向こうを歩いていた知り合いは私のフレグランスだと気付いていたようでした。
本来は、風に乗って話している相手と自分がふと感じる程度が理想。重ね付け+気温・体温の上昇で、これは香りが強く出すぎたではないかと思われる例です。
ケーススタディ2:体温でふわりと香り出す
冬の夕方、空調の効いたオフィスで本棚整理をしていたとき、体が温まり、朝に両脇腹へひと塗りしたサクラのパルファン(香水濃度)がふわりと再び香り出しました。
自分では気づきませんでしたが、同僚から「いい香りがする」と声をかけられました。
香水は「動き」に加えて、体温の変化でも再び立ち上がるという好例です。
ケーススタディ3:ハンカチに残した香りが救いに
夏の朝、両脇腹と両膝裏に軽く1プッシュずつコケシミズのオードパルファンをつけて出かけましたが、夕方には、私自身ではほとんど感じない程度になっていました。
帰りの電車で不快な匂いに遭遇したとき、ハンカチにひと吹きして忍ばせておいた香りが活躍。
カバンの中に仕舞われていて揮発が抑えられていたため、鼻先で涼やかに広がり、癒しの空間を作ってくれました。
「ずっと香るより、“ふと香る瞬間”が心地よい」
3つのケースを通じて感じたのは、どんな香りでも「ずっと漂っている」よりも、「ふとした瞬間に感じる」方が魅力的だということです。特に日本的な感覚では、常に自覚できるほど香っている状態は、少しオーバードースに受け取られるかもしれません。
付けた瞬間にはトップノートを楽しみ、普段は忘れていても、動いた時にふわりと香る――そのくらいが上品で心地よい香り方。
もちろん、ピッタリと調整するのは難しいのですが、「つけすぎた」「香らなかった」という経験自体が、適量を学ぶための大切なヒントと考えて、いろいろとトライするのがよさそうてすね。
「上手に香りをまとうためのヒントは?」
実際に香りを試すときに押さえておくと安心なポイントをまとめました。よろしければ参考にして下さい。
- 量 最初は、つける量や場所を固定し、香り立ちの傾向を観察しましょう。
- 鼻の順応 自分では感じにくくても周囲にはしっかり届いていることがある、と心得ておくこと。
- 体温 運動や作業など体温が上がるシーンがある日は、やや控えめに。
- 気温・季節 冬は香りが拡散しにくく、重め・強めの香りも心地よく楽しめます。
- 濃度 冬は濃度の高い香水をポイントづけで使うのもおすすめ。
- つける場所 重い、あるいは、強い香りは鼻に近い部分を避け、膝の裏や足首などに。
- 小物の活用 アトマイザーで持ち歩き、夕方につけ直す、あるいは、ハンカチや小物に仕込み、必要なシーンで自然に足したり引いたりができるようにするのも便利です。
『複雑な“香りの強さ”との付き合い方』-そして、香りが心に残る仕組みをめぐる小さな試み -後編:9月28日(日)午前11時 に掲載予定です。
こちらは香りの記憶にまつわる調香師大沢さとりのブログ記事です。よろしければご覧下さい。
ニックネーム:T.T
プロフィール:香水ソムリエ。パルファンサトリ フレグランススクールにてインストラクターをさせていただいていました。現在はアトリエで接客を担当しております。



