PARFUM SATORI®︎

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2004.06.01

ジェシカ JESSICA

ジェシカ8月号[フレンチな日本のクリエイターたち」に取材記事掲載

【香水はおしゃれのファイナルアンサー】    

日本人は欧米人に比べて香水を使わない。それは体臭が弱いことや香水との関わりの歴史が浅いことにもよるのだろう。一方で、公共の場で時々強い香水の匂いに閉口してしまうことがある。日本人は"香水下手"?世界的にも数少ないフリーランスの調香師・大沢さとりさんに香水と香りのあれこれを聞いてみた。

〔調香、調香師と言う仕事〕
 調香師の仕事とは、香りの元となる香料の原液を調合することである。香料は香水ばかりでなく、洗剤、歯磨き粉、ガム・・・日常生活で使う多くの製品に使われており、その素材は2000~5000種類にも及ぶ。
 さとりさんは、香水やオーデコロンなどの"ファイン・フレグランス"だけを扱う調香師である。「ファイン・フレグランスによく使う香料はおよそ500種類です。それを組み合わせて処方箋を作り、原液をブレンドして香りを作ります」と言えば簡単に聞こえてるが、各々の香料の香りはもちろん、その組み合わせとなれば配合次第で無限大になる。
 「例えばジェシカさんという女性のために香水を作るとします。まずはジェシカさんのイメージを想定しましょう」ジェシカのイメージは活発でフレッシュ、でも女性らしいセクシーさもある・・・「活発なイメージを具現化するはこの系統のこの香料、フレッシュさは・・・女性らしさは・・・とそれぞれのグループごとに香料を選び出して最適に一番美しく配合し("アコード・調和・をとる"という)、さらにコンセプト・グループ同士を調香して・・・全体のアコードをとっていくんです。この繰り返しの中で、合わない香料があったり、香料同士は合っていても分量のバランスによって性質が変わればまたやり直します」・・・気の遠くなるようなプロセスだ。一般人なら3種類も似たようなものを嗅ぐともう混乱するといわれる嗅覚を、毎日匂いを嗅いで研ぎ澄ましていくのだ。「香りは見えないものだから、自分から意識を向けていかないとわかりません」

〔失われた香りを求めて?〕
 さとりさんのアトリエでは個人客からのオリジナル香水のオーダーも受けている。
 「オーダーにあたっては、その人のイメージやコンセプトを作るために、どんな香りが好きか嫌いかに始まり、ファッションや音楽の嗜好、キーワード分類など綿密な分析を行います」そのチェックシートの項目はカウンセリング用のカルテのように膨大だ。それに基づいてその人に合った香りを調香する。「それだけではプロとは言えないと思うんです。その人のための香水ですから、その人の一歩先を提案できる香りを調香したいんです。香りによって自己発見をしていただいて、さらに香りによってセンスをステップアップしていただければと思って調香しています」
 また、自分が愛用していたが廃番となってしまった香水を復刻させてほしい、というオーダーもあるそうだ。「天然香料が希少になったという理由や、天然香料業界やメーカーの規制やガイドラインなどに基づいて、ある香料が使用できなくなり、その香料が同じ香りのまま作れなくなってしまうことがあります。それによって香水が廃番になったり匂いが変わったりすることが往々にしてあるんです」シャネルNo.5ですら1921年に発売されたものと70年代のもの、現在のものではそれぞれ微妙に香りが異なるそうだ。「だから100%同じ香りを、と言われてもそれは不可能です。それをご理解いただいた上で、その香水と自分の思いの接点がどこにあるのかを踏まえて新しい香りを作るということでしたらご協力しましょう、ということなんです」興味本位でオリジナル香水や復刻版を作ることはノスタルジーでしかない。香水はつける人の美的感覚を磨くもの、だから。

〔香水「つけるコツ・選ぶコツ」〕
 服、靴、小物ときて最後に身につけるものが香水・・・そういう意味で 香水はおしゃれのファイナルアンサーともいえる。
 「昔は『パルファン(香水)は点で、トワレは線で、コロンは面でつけろ(※1)』といわれました。匂いの持続時間が長いものほど多くつけないようにということです。それに量を多くつけると鼻が麻痺してしまって、さらに多くつけるようになるという悪循環に陥ってしまうこともあります。つける回数も多すぎるとラストノート(※2)だけが残り重なることで香りが変わってしまうことがあります。つけるところは手首、足首、膝の裏など、身体の中心から遠いところです。正中線(鼻など顔の中心線)やデコルテ(胸元から鎖骨、首筋)から上にはつけません。下着や素肌につけてから上着を羽織る。それから香水も酸化しますから1年、長くても2年程度で使い切ることですね」自分に合った香水をどう選んだらいいのでしょう。「誰々がつけてるからとか、流行っているとかではなく、まずは、好きだからという理由で選んでみてください。日常でファッションや美のセンスを磨いていれば自分の好みも成長します。そうすればさらに香りに対する感覚もステップアップしますよ」

〔サロンについて〕
 さとりさんは調香のサロンを開いている。ご自身もスイスの香料会社に在籍していた調香師に教わって技術を身につけた経験から「プロでなければプロは育てられない」と言い切る。
 「調香師は、なろうと思ってすぐなれる職業ではありません。ともすれば、調香師という言葉が素敵な職業とイメージされて独り歩きする懸念があります。民間の学校などで『あなたも調香師になれます』的な謳い文句(日本には調香師の公的資格はない)を揚げて生徒募集をしているところもあるようですが、日本のほとんどの調香師は企業所属であり、調香師としての募集はほとんど見かけないというのが現状です。このサロンは、まず香りを好きな人に集まってほしい。結果として、それが自分の趣味でも仕事でもいつか役に立てばいいですし、調香師になることにこだわるより自分の分野や、これまで思いもしなかった分野で香りの新たな可能性を広げていってもらえば嬉しいですね」

〔世界調香師会議と青いバラ〕
 フランスでの調香師の位置付けは芸術家である。さとりさんはこの6月フランス・カンヌで行われた世界調香師会議に出席した。この会議のシンボルとなったのが"青いバラ"。青いバラは不可能を表す。神話の時代から青い色のバラだけは、どんな調合を行ってもできないものとされてきた。調香の未知なる可能性を求めてこの会議のシンボルとされた。
 さとりさんは忙しい合間をぬってパリの散策をすることが大好きだという。「パリの街は美の万華鏡。子供がこっちのお花畑からあっちのお花畑と夢中になるように、あちこち歩き回っています。奔放に歩きすぎて連れがいる場合は迷惑をかけてしまうので、いつも一人で歩き回ることにしているんですよ」変化が穏やかなパリだか、16歳で最初に訪れた時から今でも新たな感動を発見できるという。「パリには美があります。同時に日本にも美があると思います。でも、そこはなぜか皆、目を向けないんですよね」
 では、日本に向けてこれからどんな香りを発信していきますか?「オリエンタリズムに代表されるような欧米人のイメージした日本人の香りは日本人の好むものとは異なる場合がほとんどです。また、ブランド香水の押しつけがましい香りが嫌い、という方も多いようです。日本の女性の香水におけるニーズは、アグレッシブな自己主張として外に向けるものではなく、内側に・・・自分を心地良くするものにあるのでは、と思います。ナチュラルでシンプルな香り、自分の身の丈にあったシアーな感じの香り。でも決してチープにならずにボトルデザインも含めて高級感を失わないものが提案できれば、と思います」
 この稿を書いている今、"青いバラ"が近年の遺伝子組み換え技術で可能になったというニュースが飛び込んできた。遺伝子組み換えで出来た青いバラ・・・とても違和感がある。青いバラを求めること、求めてきたことから生まれた何ものか・・・その歴史や人の思いを一足飛びにして作られた青いバラに美的な意味はあるのだろうか。調香は、自分の育んできた感覚で香りを、目に見えない美のかたちとして調和させることだと思う。さとりさんと話していると、自分の美的感覚の追求なくしては、調香師になることも、自分の香水を見つけることもできないということを改めて考えさせられる。おしゃれのファイナルアンサー=香水から美の感覚を育んでみませんか?

※1 香りの製品はアルコールに溶かした香料の比率(賦香率)によって区分される。いわゆる香水とはパルファンのこと。それぞれの持続時間によってつける量、回数を調整すべき。オー・ド・トワレなどの"オー(Eau)"は水の意味で、パルファン以外はアルコールの他に水が入っていることを表す。
※2香水の時間による変化。香水はつけてから消えるまで3段階、トップノート、ミドルノート、ラストノートと、時間経過にともなって徐々に感じる匂いが変化する。


【大沢さとりさん】東京都出身。1988年よりハーブとアロマセラピーのショップを経営するかたわら、フレグランスデザイン・調香を学ぶ。元スイス・フィルメニッヒ社・主任調香師、丸山賢次氏に師事。2000年に代々木にて「サロン・ド・ラチメリア」をオープンする。12歳より華道草月流、茶道裏千家を学び、それぞれ師範、茶名取得、他、香道、三條西御家流など、和の伝統を香水に生かし、「日本人に本当にふさわしい香りのクリエイション」をテーマにした調香をライフワークとしている。