Parfum Satori

フレグランス メイキング・ストーリー making storyの最近のブログ記事

Mizunara-ミズナラ- 

20180606赤城山みずなら.jpg


名前を知らなければただのゆきずり。名を呼ぶことで、その植物となじみになる。 調べるほどに縁ができていく。



雑木林を歩けば、楢(ナラ)とか橅(ブナ)とか樫(カシ)とか椎(シイ)とか椚(クヌギ)とか、存在だけ感じているし、彼らに囲まれているということは、街の通行人を眺めるがごとくぼんやりと知っていた。


でもミズナラはもう、雑踏の誰かでも、背景の一部でもない。
会えば挨拶する、私のともだち。

馴染みになるってそういうことではないだろうか。




Mizunara-ミズナラ- 水楢の木を探して③

20180603ミズナラ大沼.jpg

下へと向かう前に、大沼の湖畔をぐるりと車で巡れば対岸に緑が見える。

しかしそれは、一足先に芽吹いた楓などほかの樹が中心のようだ。黄味が強すぎるし整いすぎている。イメージのなかの、もっと輝くような新緑の光景とは異なる。

軽い失望のなか、雨は強くなったり弱くなったり。


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山を降りる途中、観光案内所で休憩を取る。予習が足りず、どこをどう通ったのかわからなかったが、ここで地図を見ながら今日の足跡をたどる。なるほど・・・。


文豪、歌人、彫刻家など、赤城山にかかわりの深い文化人は多い。志賀直哉、与謝野晶子、鉄幹、有島武郎、林芙美子、斎藤茂吉、芥川龍之介、武者小路実篤、漱石、高村光雲などそうそうたる名前が並ぶ。

と、ここで仕入れたばかりのにわか知識である。

気を取り直して、出発。


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さて、また少し車で下り、標高1000メートル、「赤城森林公園」にさしかかる。

すっかり緑に覆われた森が眼下に見え、水楢(ミズナラ)らしき樹も見えるので、入り口付近の駐車場に車を止めて斜面の途中から眺めてみる。

「けっこう葉が開いていますね、たくさんありますよ」
赤城山に山荘を持つ、引率のI さんに教えてもらいよく見ると、ほかの木の緑に混ざって、そこかしこにミズナラの葉も見え隠れしている。

「おお!すばらしい!!ここで写真撮りましょう♡」


雨がずいぶん降ってきた。

濡れそぼつ森林に足を踏み入れると、落ち葉がつるつるとすべる斜面は足場も悪い。カメラに雨がかからないようにK君に傘を差してもらう。

湿った土の、ぬくもりのあるアーシーな匂いがたちのぼる。シダのグリーン。大地の匂いジオスミン(geosmin)。

樹齢の長い、古い大木も見つけた。
ちょっと樽を思わせる、ずんぐりした形が面白い。


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水楢(ミズナラ)は、ブナとともに日本のブナ帯森林を形成する落葉樹。モンゴルから来たモンゴリナラの変異したものと考えられ、ジャパニーズオークの別称もあり、樹齢1000年を超えることもあるという寿命の長い樹である。

倒れても萌芽再生力(ほうがさいせいりょく)があり、樹齢にくらべてあまり大きくならないのは、根に栄養を回していることも理由のひとつ。

材の目が詰まって重く堅いため、建築材、家具として使われ、森ではマイタケを初め、多くのキノコを育てる恵み豊かな樹木と言われている。



「日本原産」
「倒れても萌芽再生力がある」
「根に栄養をまわし、樹齢にくらべてあまり大きくならない」
「材の目が詰まって重く堅い」


どれも、パルファンサトリのフィロソフィーと重なって、ハートに響く樹木である。




20180513赤城山ミズナラ4.jpg

雨に打たれて、瑞々しい水楢、ミズナラの葉。

この、葉のヘリがギザギザした鋸歯(きょし)がミズナラの特徴である。

標高1470メートルの小沼(この)から500メートル下界では、堅い冬芽がこんなに立派な葉に育っていて、とても嬉しい。


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ひも状に下垂する地味な花も咲いていた。
これが、やがてドングリのひとつぶ一粒になる。





「高原の湖畔に広がる新緑の水楢林」には時期が早かったけれど、ミズナラの冬芽から開いた葉までの段階を、標高差によって一度に見ることができてとても幸運だった。

もし湖のまわりが一面の新緑であったら、下界もすでに茂っていて、芽吹きに会うことはできたかっただろう。


再び来て、その光景に会えるのをとても楽しみにしている。


「Mizunara‐ミズナラ‐」モルトの香りにつづく・・・予定。










高原の湖畔に広がるミズナラ(水楢)の林
明るい緑を映す水面(みなも)に光が反射する
風が渡り、さざ波は立つ、そのきらめきが再び葉に照りかえす
透明な湖底には、硬くて強い意思がある




フレグランスブランド'パルファン サトリ'の新作『Mizunara』は、ミズナラの「新緑の風」と
「芳醇な樽」の香りが組み合わされた、男性におすすめのフレグランスです。




Mizunara-ミズナラ- 水楢の木を探して②

20180513赤城山ミズナラ8.jpg

赤城山の観光シーズンはどこもとても混んでいるらしいが、ゴールデンウィークが終わった雨の日曜日のためか、ほとんど人がいない。

道々、引率の I さんが、縦に裂けた樹皮を指し示し「これが水楢(ミズナラ)ですよ」と教えてくださる。我々も次第に木立の中の水楢の見分けがつくようになってきた。

山頂付近には大沼(おの・おぬま)、小沼(この・こぬま)、覚満淵(かくまんぶち)がある。初めに覚満淵へ、そこからさらに標高の高い小沼(1470m)に行く。だんだんと裸の林が広がっているのが見えてきた。間違いなく葉が開いておらず絶望的な気分だ。



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遠くから見て枝先が赤っぽい茶色になっているのは、木の芽が膨らんでいる証拠。明日から天気がよくなるそうだから、きっと次の週末には若い緑に覆われるだろう。

山の上だからか雲はより厚く垂れこめて、ポツポツしていた雨がパラパラになってきた。

まずい、、、。
リュックをしょわされたK君の後ろ姿も、心なしか肩を落としているように見えるではないか。
Iさんは雨でも慣れた道でスイスイである。


遊歩道を小沼にむかって歩いていくと、木の間から湖面が見えてきた。やや緑がかった鈍色(にびいろ)の、メタリックな光が照り返している。

まさにこの色は、香水「Mizunara-ミズナラー」の商品画像の背景の色。葉こそないものの、想像上の景色が、眼前に広がるのが感動的だ。


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赤城山は溶岩が冷えて陥没した穴にできた「カルデラ湖」だと思っていたが、大沼、小沼は噴火口がそのまま水溜りになった「火口湖」と呼ばれるもので、その成立が違う。

噴出するガスや温泉の成分の関係で、湖面は深い青緑の神秘的な色になっていることが多いそうである。

濡れないように、K君にカメラに傘をさしかけてもらいながら何枚か写真を撮り、また車で大沼のほうへと移動する。


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大沼(おの)は標高1,310メートルで、150メートル下がる。湖の周辺を車で移動中、葉が芽吹いている水楢を発見。急いで降りて写真を撮る。



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冬芽の赤い芽鱗(がりん)を割って、緑の葉がまるで花のように開いて綺麗である。捜し求めていたものに出会えて、ここでもまた感激する。

命の生まれる喜び。



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また、車で移動。
しかしその後、ふわーっと山から霧が降りてきて、景色はガスに包まれていく。神秘的な世界が見れたのも素敵。

『雨の日の赤城山もいいかも・・・。』だんだん嬉しくなってくる。


でもここでは写真にならないので、
「標高がまた低くなればミズナラの葉ももっと開いているでしょう。」と朝きた道を下に戻ることにした。





つづく













高原の湖畔に広がるミズナラ(水楢)の林
明るい緑を映す水面(みなも)に光が反射する
風が渡り、さざ波は立つ、そのきらめきが再び葉に照りかえす
透明な湖底には、硬くて強い意思がある




フレグランスブランド'パルファン サトリ'の新作『Mizunara』は、ミズナラの「新緑の風」と
「芳醇な樽」の香りが組み合わされた、男性におすすめのフレグランスです。



Mizunara-ミズナラ- 水楢の木を探して①

20180510青葉2.jpg


5月に入り、アトリエで仕事をしているとすでに汗ばむような夏日が続いていた。窓の外を眺めながら遠い水楢(ミズナラ)の林を想う。ずっと焦がれたその場所に行く日が近づいていた。



今年の4月の平均気温は21度と、例年に比べ5度~6度高いと聞いていたので、5月中旬にはおそらく山の上も、芽吹きのときを迎えているだろう・・・。

そんな風に楽観していたが、標高の高い場所の季節の訪れは遅いのでは!と気が付いたのは出発1週間前。

赤城山(あかぎやま)は標高1500メートルであるから、東京に比べ10度は低い。ゴールデンウィーク前に下見に行ったI(アイ)さんの写真ではまだ冬枯れのままである。はたして、新作発表会の前に新緑の水楢林を見ることができるだろうか?

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この香水のスタートは2015年の秋。

「Mizunara‐ミズナラ‐」の香水は、「芳醇なモルトの樽香(たるこう)」のベースに「高原の湖畔に広がる水楢林の新緑の風」を合わせたものである。

それはモルトに始まり、水楢の材、水楢の樹、その新緑の林へと繋がっていった私の旅。頭に描いた想像の光景を見たいと強く思っていた。


材木屋さんから端材を取り寄せたり、近場に植わっているミズナラの樹を探したり。あいかわらずスローな私が紆余曲折(うよきょくせつ)しながら、このイメージの地が現実に群馬県の赤城山のカルデラ、大沼(おぬま)周辺にあると知ったのは昨年の秋になってのことである。

すでに落葉が始まり、新緑の林を見るためには次の初夏を待たねばならない。

処方の最終調整をしながら、製造の段取りと5月の発売の準備をあれこれとしているうちに、あっという間に年が明け春が来た。


こうしてようやく、5月中旬にその地へ行くことに決まったのである。

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この日の朝、赤城山に山荘を持つIさんの車で、スタッフのK君を伴いつつ関越道を北へと向かう。予報は午後から雨。前日までの快晴が恨めしいような曇天で、赤城山に近づくにつれてポツポツと雨が落ちてきた。


「みんなで水楢を見にピクニックに行こう!」と呼びかけたもののみな都合がつかず、K君だけが逃げ遅れたのである。

前日、「先生、雨だったら中止ですよね?」と不安そうな彼を見ながら、「少しくらいなら雨天決行!」と宣言したので、豪雨にならないことをちょっぴり祈りながら九十九折(つづらおり)の山道を車で登る。




標識は1番から始まり、ターンするたびに数が増えていく。樹木の種類が少しずつ変わっていき、ピンクの樹皮のダケカンバから白樺のほうが多くなってくるころ、水楢らしい樹が散見されるようになる。


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「ああ、少し葉が開いていますね」とIさん。
「じゃあ、雨が本格的降る前に、早めにこの辺で葉っぱだけでも先に撮っておいては。」
とがっつく私。
「まあでも、とにかく大沼のほうまで行ってみましょう」

とかなんとか話し合っているうちに曲道は91を数え99にいたった。


つづく










高原の湖畔に広がるミズナラ(水楢)の林
明るい緑を映す水面(みなも)に光が反射する
風が渡り、さざ波は立つ、そのきらめきが再び葉に照りかえす
透明な湖底には、硬くて強い意思がある




フレグランスブランド'パルファン サトリ'の新作『Mizunara』は、ミズナラの「新緑の風」と
「芳醇な樽」の香りが組み合わされた、男性におすすめのフレグランスです。



Mizunara-ミズナラ- 新作香水の発売に寄せて

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ミズナラ香水の構想


 2年半前、初めて「水楢佳寿久/MIZUNARA CASK」というオーセンティックなバーに入った瞬間に、お店を満たすウッディな香りと、樹齢500年の水楢材のカウンターに魅了され、そしてさまざまなウイスキーの香りの違いを体験し、とても心を動かされました。

 ウイスキーについて興味をもち調べるうちに、ミズナラ樽で熟成されたウイスキーが「伽羅」と「白檀(サンダルウッド)」の香りがあるということを知り、メイドインジャパンにこだわったパルファンサトリの香水のテーマにふさわしいと直感。


 いろいろと試飲しながら、バルサムやカストリウム、アンバーといった香料が次々と思い浮かびました。そして、アトリエに戻りオルガン台を前にアコードをとり、試行錯誤を繰り返しながら、モルトコアベースにたどり着いたのです。

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 やがてミズナラの樹そのものにも関心が湧き調べるうちに、標高の高いところに生育することを知り、「高原の湖畔に広がるミズナラ林」の情景が思い浮かび、このミズナラのコンセプトが完成しました。


 フレグランスブランド'パルファン サトリ'の新作『Mizunara』は、ミズナラの「新緑の風」と「芳醇な樽」の香りが組み合わされた、男性におすすめのフレグランスです。


 新緑のさわやかな季節、この Mizunara -ミズナラ- の香水をお楽しみいただけたら、とてもうれしく思います。 


★2018 年5月28日(月) 明日発売  

■ご注文ページ → Mizunara-ミズナラ-


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Brand Philosophy

日本の香水文化を育てたい

 

「香」と「香道」の歴史は長くても、「香水」となると浅い日本。香水の本場フランスと行き来し、

調香師としてスキルアップをしていく中で

「日本の香水文化を育てたい」と思うようになりました。

 

香水文化を根付かせるため、

フランスにあるような香水のスクールを作り、

日本の気候風土にふさわしい、

日本人の作った日本の香水が必要だと考え

「パルファンサトリ」を立ち上げました。

 

 

想いはいつしか、

海外に日本の文化を伝えたいという気持ちに進化し

この20年で「メイドインジャパン」の香水として

海外からも注目され始めました。

 

パルファンサトリは、

スクールとプロダクツ、国内の活動と海外への発信の両輪で、

日本の香水文化の発展に寄与していきたいと思います。

 

大沢さとり

「織部」Oribe Fragrance story ② 織部の香りができるまで

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よく「名前と香りのどちらが先にできるのですか?」と聞かれるが、その時々で違う。

先にテーマが決まって、香りがその目標に向かっていくこともあるし、出来上がってからしっくりくる名前を付けるのに苦労することもある。このときの作成途中の仮称は「抹茶」で、正式なネーミングは後からついた。できあがったときに、「抹茶」では工夫がないと思い、あれこれ書いては消しているうちに、「織部(おりべ)」という名前が浮かび上がったのである。


「古田織部(ふるたおりべ/重燃)」は、千利休の高弟の一人で16世紀の茶人である。千利休の茶道を継承しつつ「人と違うことをせよ」という教えを忠実に実行したと評される。大胆で自由な気風で、美の新しい価値観を茶の世界に作り、作庭、建築、焼き物など「織部好み」という一大流行をもたらした。400年も前にデザインされた濃い緑と黒の焼き物は今なお新しい。


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私が初めて織部の名を知った時は定かではないが、母が使う茶器を見ながら覚えたものと思われる。
その後、12歳で正式に入門し茶道を習い始めた。師匠のもと、あるいは母のそばで茶に接しているうちに、折りに触れ少しずつ聞きおぼえた物語りが、いつか身の内に降り積もって、数十年後にこの香水の名として浮かび上がったものであろう。いわばこの名は、母の手柄である。


織部についてもっとよく知りたいと、改めて本などを読んだのは、香水に名を付けた後であった。司馬遼太郎は「おそらく世界の造形芸術史のなかで、こんにちでいう前衛精神をもった最初の人物」と評している。

なぜ香水名が「利休」でなく「織部」なのかと尋ねられたことがある。ひらめきは理屈ではないが、しいていえば利休はよく知られており、織部を知っている人は少なかったからではないか。「人と同じことはしたくない」と思う。

「さとり」という香りが沈香木の再現のみならず、「和室の清浄な空間、そこに入る人の佇まい」をも表現したかったのと同じように、「織部」の香りもただ爽やかなだけのグリーンティとは一味違う、日本の茶の香りと、「茶を点てて振る舞う心のありよう」まで捉えたかったのである。



「織部」はわずかに苦い。シス-ジャスモン(cis-Jasmon)が効いている。これはジャスミンノートに入る単品香料だが、渋み、苦みを感じさせる香料である。

そして「旨み」としてバイオレットリーフを少し入れている。バイオレットリーフの香調はキュウリっぽいといわれるが、私には乾物の、例えば昆布出汁の匂いを感じるから。 

すっきりとしたグリーンだけでは少し膨らみが足りないので、フローラルを合わせてボディ感を出した。

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「茶の木」も「さざんか」も「椿」も、同じツバキ科の植物である。サザンカは晩秋に咲き、椿は春にかけて咲く。そしてお茶の花が咲くのは12月。白い、小さなツバキのような可憐な花である。
香りも良い。サザンカの香りに近く、ヘディオン(Hedion)という香料の匂いがする。ヘディオンはジャスミンの要素でもある。それゆえ「ティーノート」と「ジャスミン」の香りは合いやすい。

そこでジャスミンabs.を足して、花のボリューム感を出した。 

また、お薄茶(うすちゃ)を点てた時の泡立ちとパウダリー感のために、イリスバターを入れ、他にも様々な天然香料が入り、単調になりやすいグリーンタイプに複雑さを与えた。 


私にとっての緑茶、ことに抹茶はさわやかさと苦味と旨味のバランスが良さであり、豊かさであると思っている。

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我が家では毎朝、抹茶を飲む習慣がある。振る舞うわけでなないが、自分のために準備を整えて飲んだ時にはすっきり目覚めて心も改まる。とはいえ「毎朝の一服」として、インスタグラムで写真をアップしているように、それは誰もが季節を楽しむのと同じような気楽なもの。

茶道では11月は「炉開き」の月。茶事に「織部」と名のつく焼物を使うきまりがあると言われているが、「織部」の香水は、日々、心が改まる時々で心地よく皆さまのまわりで香っていられたらと願っている。


 


「織部」Oribe Fragrance story ①世界のグリーンティノートの変遷

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ヴァン・ヴェール(ピエール・バルマン)が1946年に発売されて以来、グリーンタイプはグリーンを強調したり、フローラルやシトラスに振れたりしながら今日まで続いてきた。

その中で、緑茶ノートの香水は1990年頃から始まったとされている。1999年エリザベスアーデンの「Green Tea(グリーンティ)」は、緑茶の香りをテーマにした新しいグリーンとして注目された。

しかしその香りは「グリーンティ」というカタカナをあてるのがふさわしい。香調は爽やかで透明感がある。日本人の自分から見れば、むしろレモンティに近いと感じたものである。


その後も、緑茶を謳った香水のヒット作が続く。むろん、緑茶イコール日本茶とは限らない。
今から20年前のパリ。当時は海外にまだ「日本茶」はあまり知られていなかったと思う。

フランスの家庭で「グリーンティ」といって出されるお茶は中国緑茶に近く、日本人が馴染んだみずみずしい緑や香りとはほど遠いものだった。(中国には緑茶、白茶、黒茶、紅茶、青茶がある)

逆に、日本に来た外国の人に抹茶を出しても「苦すぎる」と当時は人気がなく、砂糖をくださいと言われたことがある。抹茶があまりにもきれいな緑色をしているので、「てっきり着色していると思った」とフランスの人が言うのを聞いてびっくりしたこともある。


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そもそも、パリに和食店は少なかった。しかし「和食文化」が次第に浸透し、寿司店(経営は日本人とは限らないが)が飛躍的に増え、やがてパリのお蕎麦屋さんで上手に箸を使う外国人も目にするようになった。

一方で、日本ではペットボトル入りの緑茶が1992年に売り出され、急須で入れるリーフティよりも簡便に飲めるということで2004年ころまでに急成長する。どちらかというと、飲みやすさ、まろやかさなどが強調されていたと思う。

その頃から、いつか日本のお茶にある渋み、苦味、うまみまで表現した香りを作ってみたい、という気持ちが芽生えた。特に、茶葉を引いて粉にした「抹茶」。お薄茶(うすちゃ)を点てた時の泡立ちまで表現したいと考えたのである。

「織部」は2008年、ブランドとして最初に発売した10本の香水のうちのひとつであるが、発売から数年間「織部」はさほど注目されていなかった。


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フレグランス界でも2000年以降、グルマンやフルーティ・タイプなど、甘く、より甘く、わかりやすい香りが流行。その中で繊細なグリーンティのタイプは埋没してしまったかのようだ。

そんな折、食の世界の抹茶ブーム。日本文化が海外にも広く知られるようになり、健康志向ともあいまって、セレブから中心に広まったようである。今では、抹茶ラテといった飲み物や、ケーキ、クッキーなどお菓子には当たり前の素材になっている。


こうして一度落ち着いたものの、世界中で食品としての抹茶フレーバーが盛んになったためか、あるいは日本の侘(わ)び、寂(さ)びなども海外で興(おも)しろく思われたものか、この数年は、再びグリーンティ、あるいは抹茶や茶道をテーマにした香水が海外ブランドにみられるようである。


それでも、ヨーロッパへ日本から持っていった新茶などおみやげに出せば、やはり彼らには強すぎるらしく、午後3時以降は飲めない(眠れなくなるから)と言う。確かに、日本茶はカフェインが強い。 

しかし「すし」もブームではなくきちんと定着しつつあってポピュラーになり、食材も海外でずいぶん手に入りやすくなった。少しずつ本当の日本の味が浸透していくのは嬉しい。

食と香りは、後になり先になり、共鳴しながら流行しているようだ。とはいえ茶道がそうであるように、流行の中にあっても芯のぶれないものというものがあり、「織部」もしかり、そういう流されないものをこれからも作って行きたいと思っている。

「織部」Oribe お客様のご感想




バラ色の雲、ニュアージュローズ Fragrance story

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南仏のバラ色の雲、ニュアージュローズという名の香水。


人工的でなく、かといってアロマのようなシンプルなブレンドとも違う。質のよい香料を「過不足なく」丁寧に組み合わせた「処方」、それが命題。


パルファンサトリの香水は全部で19種類。たくさんの作品の中から選んで、17年かけて少しずつ世の中に出してきた。
私にとって、どの香りもそれぞれに思い入れがあり、どれが一番好きとは決められない。

でもあえてこの季節に好ましい香りがあるとすれば、「ニュアージュローズ」。自分が女性らしくありたいと思うときにつける香りである。




つけたてはフレッシュ。でも、そのあとは時折、柔らかく密(ひそ)やかに香って、周囲を困らせることはない。香りがリフレインするたび、自分が女性であるということを自覚できる、そんな香りなのだ。






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南仏コートダジュールの夜明けや夕暮れどき、空のキャンバスいっぱいにバラ色とスミレ色が交差し、やわらかな雲の波間から海へと光が差し込む...そんな美しい情景を香りに託しました。

目を閉じて香りをまとうと、心にやさしい色と輝きがひろがり、新しい旅へと誘われる...。

ニュアージュローズは人生の喜びや美しさを情緒豊かに感じる女性のための香りです。


ハナヒラク、Hana Hiraku  第⑧話<完結>

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こうして、香水「ハナヒラク」ができる途中には紆余曲折(うよきょくせつ)があり、
2016年10月15日にようやく世に送り出す事が出来たのである。

今朝はお礼がしたくなり、気が付けば新宿御苑の朴(ホオ)の木に向かっていた。

透明な秋の日を浴びて、まだ葉は青さを保っている。



新宿御苑に通い始めてもう10年になる。
大きな樹は、心の拠り代(よりしろ)。

朴(ホオ)の木は、
巡りくる春、夏、秋、冬を見せ続けることによって、
誰しもの夜は明けて、必ず朝が来るものだと教えてくれた。

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朴の木の下で考える。

私の「ドライオリエンタル」の考案は、日本の気候風土で生まれ、醗酵(はっこう)し、
香水のタイプに醸成した。

乾いているけれど、砂漠の砂のようにさらさらではない。
腐葉土のように、ほっこりと暖かい和のオリエンタル。


寒い日には襟元からふわふわと香って、心を温めてくれるに違いない。


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「そういえば、マグノリアのイラストを書いたことがあった。」
帰路、御苑の林を散策しながら思いだした。

大昔の調香ノートを引っぱり出し、発掘したのは20年以上前に私が書いたスケッチ。
下の方に、magnoliaというつづりと、右のページには簡単な処方が書いてある。


ホワイトフローラルが中心となった、香料10点余りの短いベース。
今みると粗いけど、懐かしいな。。。


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朴の木をはじめとする、マグノリア類への熱い思いはずっと昔に始まっていたけれど、
「ハナヒラク」に本格的に取り組んでから、ちょうど1年。

どこで完成と決めるのはいつも難しいけれど、ひとつの到達点には届いたと思われる。


秋が実りの季節だとすれば、

再び、私の引き出しに「喜び」と呼ばれる種子を集め、
別のトレイの中からは「ベース」というタマゴのいくつかを孵(かえ)し、
「次の香り」を育て始めなければならない。


冬がやってくる。



        ー了ー


ハナヒラク、Hana Hiraku⑦処方と香料その3 チュ-ベローズTuberose 

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チューベローズは肉食系の香りだ。

チュベローズと口ずさめば、名前の音の響きは可愛らしく、白く可憐な姿からは、清らかな乙女を想像しそうだ。

しかしその花に近づき匂いを吸えば、ぽってりと濃厚なミルク・ラクトニック感、アニマリック感があり、
グイグイとした押しの強さがある。

さらに香料になったチュベローズAbs.には、強いグリーンノートの奥の方にハムのような、コンソメのような食欲をそそる塩辛さも感じられる。



南仏、グラースの香料会社の隣の敷地には食品工場がある。
夕方になりラボから出ると、コンソメの匂いが漂って来て、猛烈におなかがすいてくる。

チュベローズを嗅ぐと、いつもそんなことを思い出すのだ。

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「ハナヒラク」は、ボリューミーなホワイトフローラルに奥行きを出すため、この塩気とコクのあるチュベローズを隠し味的に重ねている。


それはドライなラストの、味噌や醤油の香りや、アンバーにつながっていく。



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チュベローズの香りを調べれば、甘く濃厚で重いとか、セクシーなどの言葉がよく見られるけれども、「食品的である」と、感じたのが自分にとって重要なキーワード。


・チュベローズはホワイトフローラルで、ハムのコンソメゼリー寄せの匂いがする。

・「ハナヒラク」のメインテーマである朴(ほお)の木は、トップにメロン調のフルーティ感があり、ボディはホワイトフローラルの香りである。

・生ハムとメロン、は美味しい組み合わせである。


さらに、朴の木の葉で、味噌を包んで焼く朴葉味噌があり、味噌や醤油といった発酵食品にはアニマルな要素がある。

と、いうわけで花の香りを表現するために、アニマルや、甘い果実や、お菓子以外の食品素材が合わさるのは、全く自然なことである。



ジャンル違いの知識が一瞬にしてつながる。
しかし、ただの思いつきではない。

成長過程での実体験の記憶と、香料のキーワード、これの積み重ねがアイデアのもととなる。

そして謎解きのように、理屈は後からついてくる。


香水の名前と香りが追いかけ、追い越していくように、アコードのアイデアとイメージもまた、もつれあって香りを育てていく。


香りを作るというのは、作曲にも、作陶にも、料理にも似ているって思う。



「ハナヒラク」が誕生するまでの過程を思い出しながら、徒然(つれづれ)に書いているこの一週間。

明日、発売。




ハナヒラク、Hana Hiraku⑥ ,処方と香料absolute&essその2

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ハナヒラクのドライ感を出しているのはカモミールブルー。

とても個性的な香りのこの香料を、常識外れと言われるような量を入れた。
多量のカモミールに多量のジャスミンをぶつけることで「力(ちから)」のバランスを取っている。


カモミールは小さなキク科の植物で、香料にはジャーマン種とローマン種があり、花はどちらも白い。

カモミールブルーと呼ばれるのは、ジャーマンカモミール種から採取された香料のことである。
なぜ白い花なのに「ブルー」と呼ぶか、というと、これは成分のアズレンのせいで香料が青いため。



ちなみに、コートダジュール(Cote d'azur)のアズール(azur)は明るい青を意味する。
アズレン(azulene)の名前も青に由来する。



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「ハナヒラク」の香水が、淡い翡翠色なのは、黄色の香料に青いカモミールの香料が入っているから。

右隣にある香水と比較すると碧色がはっきりわかる。
右が無色に見えるのは、イリスなど白い色の天然香料が多いためである。




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カモミールブルーは花の香りというより、塩辛さと植物性のアンバーノートを持つ。


まだ香料の勉強を始めたころ、この香料には手焼きせんべいの要素・・・乾いた醤油の香りがする。。と思ったものである。

味噌や醤油から直接香料を取るわけではないので、組み合わせで作ってみたいと何回も処方を書いた。
カモミールブルーを中心にしたベース、それは私の処方の引き出しに、何年もしまってあったものだ。



味噌、醤油、日本酒、麹、
世界の香料業界で、日本の発酵食品の匂いが注目され始めて久しい。

子供のころから親しんできたそれらの香りは、日本で生まれ育ったからこそ作れるのだと思いたい。

この不思議な香りをファインフレグランスにほんの少し潜ませる、それは日本人には懐かしく、海外の人には新鮮な驚きを与えるに違いない。


どこにでもある香りではなく、しかし奇をてらったものではなく、香水として完成されたもの。
私が自分でつけたい香り、つけていて心地よい香り。

少しずつ進化する、それがパルファンサトリのコレクション。






ハナヒラク、Hana Hiraku⑤ ,処方と香料absolute&essその1

20140502ホオノキ1.jpg

「ハナヒラク」はホワイトフローラルのこっくりとしたラクトニックな香りと、フルーティな甘さ、味噌や醤油の鹹(しおから)さとドライなアニマルノートが骨格になっている。

この不思議な香りを心地よく表現するために、天然の花の香料を、種類も量も贅沢(ぜいたく)に使った。

ジャスミン(jasmine abs.)、マグノリア(magnolia oil)、チュベローズ(Tuberose abs.)、イランイラン(ylangylang oil)や、カモミールブルー(chamomile blue )、イリス(Iris butter)、ローズ(Rose ess)など。



本来、天然香料は、入れるほど良いというわけじゃない。
すべてが天然香料では表現の幅は狭く、野暮ったくなる。

過不足なく、、、最適なバランス、組み合わせが大切なのだ。

天然香料は、単品香料のストレートな強さを柔らかくまとめたり、
重ためなオリエンタルを軽やかに品よく立たせる力がある。


10140331シデコブシ.jpg

ハナヒラクの主要なイメージ、マグノリア(モクレン、木蓮、木蘭)の仲間の花は、少しずつ異なるものの、どれも強い香りがする。

ざっと上げると、コブシ(写真上)、シデコブシ、ハクモクレン、モクレン、バナナの匂いのカラタネオガタマ、純白の大輪タイサンボク、オオヤマレンゲ、シャンパカ、そして1枚目の写真、マグノリア類で最も大きな花「朴の木(ほおのき)」がある。



131205シャンパカ.jpg

ハナヒラクでも使われているマグノリアオイル。
上の写真は銀厚朴(ギンコウボク/Michelia ×alba )といい、マグノリアオイルはこの花から得られる。

モクレン科オガタマノキ属の常緑高木で、ホワイトシャンパカとか、白玉蘭(ハクギョクラン)の別名もある。 

120506マグノリア香料.jpg

香料になったマグノリアフラワーオイルは甘く、ブチブチと熟れて発酵したベリーのような香りがする。
天然の花の香料でフルーティ要素を持つものは珍しい。


熟れた果実のトップノートが終わると、すぐにセージのようなハーバルな香りが強くなり、この二つの取り合わせが妙な感じの香料だ。

また、caryophylleneの渋い枯れたウッディな匂いがする。



20141028ジャスミン.jpg

主要なイメージのホワイトフローラルを作るのに、マグノリアオイルだけでは厚みやミルキーな滑らかさが表現できないので、「ハナヒラク」にはジャスミンabs.をたっぷりと、本当にたくさん使った。

この天然ジャスミンは、雑味がなくきれいな匂いたち。

そしてチュベローズ、イランイランを加えコクを出している。



ホワイトフローラルタイプは、夏や南国を思わせる花の香調ではあるが、日本では秋から冬にかけて肌につけると、とてもきれいに香ると思う。




はなひらく,Hana Hiraku ④香水のネーミング

090922ラボ花の額.jpg


香りを作るときに、イメージが先ですか?名前?それとも香料から決めていくのですか?
そう聞かれることがよくある。


それはどれも正しくて、その時々によるし、両方が追いかけ追い越しながら香りができていくこともある。

「ハナヒラク」は、仮の名前があり、香りができ、後から正式な名前が付いた。
そして香りは大きく変更されたのである。



最初の名前は「エパヌイール(épanouir、咲かせる、輝かせる)。

この名前にもちょっとしたエピソードがあって、
数年前、フランスに滞在しているときに
「仕事をしていて何が一番楽しいのか?」
という話題になり、

「お客様と香りのお話ししているでしょう、ムエットについた私の香水をかいだ瞬間に、相手の顔がぱっと明るくなるの、その表情でいろんなことが報われるのよ」
と説明しながら、一言で何かぴったりの言葉がないかって頭の中で探していて、

「そう、エパヌイール!」
という言葉が私の口から出てきたときに、

その人が、
「エパヌイールか!いい言葉だ」
と、懐かしい名前を思い出したような表情をしたのを見て、
私にとっても特別なことばとなり記憶に残った。


そして、新しい作品のテーマは「木の花」。
春から夏にかけて、いろんな種類の木が次々と蕾を付け、白い花がどんどん開いていく。

香りを作りながら、顔が花のように輝く表情と「エパヌイール」という言葉が重なって思い浮かんだ。



香水の仮の名前は「エパヌイール」
でも、それはフランス語。
音はかわいいけど少し覚えにくく、意味が伝わりにくい。

やはり最後には日本語で名前を付けたくて、10も20も候補が挙がっては消えた。

しっくりくる言葉が浮かばないまま、エパヌイールの香りはできていく。
5月には発売する予定なのに。

20160107母の茶道 茶杓 花開 2.jpg

2月になった。
毎朝の一服、抹茶を点てようとしていると、母が自作の茶杓(ちゃしゃく)を奥から出してきた。
竹の茶杓入れには「花開」と書いてある。

「これ、何と読むの?」
「ハナヒラク」


はなひらく。。。
何回もつぶやいてみる。
音に希望があって、明るくていいなあ。
それに、エパヌイールとも通じるし。

20160107母の茶道 茶杓 花開.jpg

花咲く、花開く、どっちにしよう。
ハナサク、ハナヒラク、やっぱり、ハナヒラク。

凝り過ぎていなくて素直な感じ。

こうして、香りに名前がついた。
香水のラベルもできて、試作のボトルに貼ってみる。


名前がつくと、それまでなんかもやもやしたものが、しっかりとした形を持つ、人格を(香格?)を持つような感じがする。

正式名がついてみると、一度は完成したと思った香りなのに、、、これでは線が華奢(きゃしゃ)すぎる。
言霊(ことだま)というのかな。


どうしても、納得のいくものにしたくて、作り直すことにした。
なぜならばこれは私の香りだから。

春からもう一周、辛夷、ハクモクレン、朴の木など、白い肉厚の花が「ハナヒラク」のを観なければ。


そうしてハナヒラクは、予定から5か月遅れた10月15日に世に出ることとなった。






ハナヒラク、Hana Hiraku ,朴(ほお)の木の葉③Magnolia obovata

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朴(ほお)の木の学名はMagnolia obovata、(マグノリアオボヴァタ)

オボヴァタというのは、ラテン語の「倒卵形」という意味である。

卵を逆さにしたようなこの大きな葉の形から学名は由来している。


この楕円の葉は30~40センチあり、比較すればこの木の雄大さがわかるだろう。
花も葉も、日本最大級の「日本特産種」である。

まだ春の葉は柔らかく、すべすべとシルクの手触りがする。

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ここの朴の木はかなりの老木である。
幹は満身創痍だ。

それでも、いっぱいに広げた枝先には、毎年5月、雄大な花を怒涛(どとう)の如く咲かせる。

ひとつずつの花の命はそれほど長くない。
しかし次々と咲き続け、100か200か、、、もっとかもしれないが、3週間ほどは花に会いに行ける。




そして咲き初めの花のフルーティな香り、咲き終わりのラクトニックな香りが混ざり合って、樹を中心とした香りのドームが出来上がる。

時折、初夏の風がひと群れの香りをさらって、遠くの人々へ運ぶのだ。


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花が終わった梅雨の時期は人がいない。
雨の中、傘をさしてこの樹の下で立ちつくしたこともある。

大人が泣ける場所って、そうそう見つからないものだから。




私はこの樹がとても好き。
花の時期はもちろん、夏の日差しを遮る大きな木陰や、グレイに乾いた巨大な葉が落葉し、地面を覆いつくすころも。

20120507ホオノキ落ち葉.jpg

ほらね、桜の落ち葉に比べて、朴の木の葉はこんなに大きい。

これが全部木の下に落ちて、多くはここで朽ちて土になり、
あるものは風で運ばれてほかの木の栄養になっていく。


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100年、200年、1000年を経た巨樹は、私たちの人生よりずっと長い。



そして毎年、芽吹き、咲いて、咲かせて、散って、、、そして循環の中で土になる。

生まれ、育ち、死んでいく、いわば1年という短いサイクルで、生涯を繰り返すのだ。



春夏秋冬、植物の輪廻(りんね)には、いつも生き方の中心軸がある。



四季のある朴の木を見ていると、

そう、そう思うのである。









ハナヒラク、Hana Hiraku ,朴(ほお)の木の花②

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初夏に咲く朴(ほお)の木の花。

子供の頭くらいはあるこの巨大な花は、
崇高(すうこう)と言ってもいい。

遠くに木の姿が見えるころから、香りはすでに届いている。
あたり一帯に拡散しているのだ。

しかし私は近づき、(触らずに)カップを抱えるようにして、中心部に顔をうずめる。



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咲き初めと、花の終わりの香りは違っている。

始めはメロンや熟れたベリーのにおいがする。
そして少しサリチル酸のようなクールな匂い、
そしてハーバルで力強い辛い香りもある。

やがてたっぷりとしたクリーミーな花の香り。


古い花はアニマリックな重さも出てくる。


草花の可憐な、触れなば落ちんという風情と対極に、
木に咲く花は他をよせつけない、気品がある。


私は、たやすくは手折れない、木の花になりたい。




150429ホオノキ.jpg

この花のどこに香りがあるのだろう。
蕊かしら、花びらかしら。


落ちてきたばかりの大きな花びらを食べてみる。
きゅうりのようなグリーンの味と、ラクトニックなゴムの味。


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朴の木の花の蕊(しべ)は野性味がある。
大きな蕊は、二段ロケットのように、雄蕊、めしべと時間差で開いてくる。

自家受粉を避けるために、時期をずらしてが成長するという。

そのあたりにも、花のにおい立ちの変化の理由があるのかもしれない。

続く


はなひらく、Hana Hiraku 、その時。パルファンサトリフレグランスストーリ-①

141221結氷2.jpg

凍(い)てついて固くしまった地面の上を、
風は漂流し、取り付く島もない。


それは確かに死んでしまったようにみえるけれども、
涸れてしまわなければ、過ごせない季節がある。



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秋に落ちた枯れ葉の、またその下の、前の前の落ち葉の積もったその下には、

ひっそりと命の根が眠っていて、


そしてもうこのまま起きられないのではという怖れと
しかしもうすぐ目覚めるに違いないという予感が、

対立してせめぎあい、拮抗(きっこう)が破れて、涙になる。



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樹はまたひとつ、身震いし、そして春が来る。


はなひらく、ハナヒラク、

Ēpanouir、エパヌイール、輝く、華ひらく。

AWAKE、アウェイク、目覚める。



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辛夷(コブシ)、白木蓮(ハクモクレン)、そして朴(ホオ)の花


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冬を耐え、固いつぼみの殻がはじけて白い花が咲く


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なよやかな草花の上で、力強い木の花がどんどんと開いていく


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朴(ホオ)の花の蕊(しべ)は、花開く意思を持つ





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「ハナヒラク」とき、道がひらける



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朴(ホオ)の木: 学名:Magnolia obovate 日本特産種


大木になると幹が直径1メートル、高さが30メートルにもなる落葉高木。朴(ホオ)の木の大きな葉に、味噌や餅を包んで焼いた朴葉みそ、朴葉餅や、皿として使うなど、日本では昔から生活に根ざした歴史があります。5月頃にクリームホワイトの20センチにもなる大きな花を枝先に咲かせ、その香りは風に乗って遠くまで届きます。

キンモクセイの香水 ソネット Sonnet / osmanthus

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キンモクセイの季節にはまだ少し早いのですが、今日は金木犀の花を思わせる熟れた黄金桃と一緒に、「ソネット」の写真を撮ってみました。


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パルファンサトリのキンモクセイの香り「SONNET (ソネット=叙事詩/小さな詩)」。

「ソネット」は、子供時代の幸せな思い出。
それはいつの世代にも繰り返し訪れる暖かい記憶を指しています。

この香りの中心にあるオスマンサス(きんもくせい)は、幼いころから私の大好きな花。
毎年、秋の透明な空気の中、このオレンジ色の花が咲くと「ああ、秋も深まってきた」と感じます。

でも、さみしい秋ではなく、実りの秋という充実感があり、それは子供時代の幸せな思い出とつながっています。



この香りに触れるとき、親や祖父母たちも、小さい頃にこの花の記憶があるのではないかしら、さらに次の世代まで、この花の香りを好きになってくれたらいいな、と願って「ソネット」を創りました。

ソネット(Sonnet )というのは、もともと「小さな詩」という意味で、イタリア風、フランス風、イギリス風ソネットなどあり、韻(いん)をふんだ14行からなる定型叙事詩です。

「ABAB CDCD EFEF GG」 という形式の、シェイクスピアのソネットは有名ですね。


「韻を踏む」が、何世代をも重ねて情景が想い出される。。。

そんなイメージで香水に名前をつけましたが、ここでは形式こだわらず、もう少し柔らかい形の「小さな詩」を書いてみました。


SONNET(叙事詩/小さな詩)

夕暮れ時の透明な日差しが
部屋の奥まで伸びて
花の香りが呼んだから
庭のテラスへおりてみた

橙色の星の花を
白いハンカチに包んで
私と似た面差しの
6つの少女が笑っている

花は時を告げるように
季節とともに巡ってくる

追憶のとき
少し褪せた家族の写真に
思い出が韻を踏んで
幾世代も訪れる

くり返し
ソネットのように






➤キンモクセイの香水 オードパルファン「SONNET(ソネット)」


トップはマンダリンのシトラスと、クラリセージエッセンスのティーノートから爽やかに始まります。そして甘い桃のようなオスマンサス(キンモクセイ)の香りは、やわらかいフローラルの広がりに。金木犀の天然香料も深みを与えました。

ニュアージュローズのできるまで② 南仏、グラースのローズ・ド・メ

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110513ローズドメ.jpg

南フランス、グラースにある植物園では5月にバラが盛りとなる。

ニュアージュローズができるまで① バラ色の雲

カンヌの夜明け2.jpg

南仏のバラ色の雲、ニュアージュローズという名の香水。2011年。

 

パフューマー・大沢さとり

「パルファン サトリ」は、フランス調香師協会会員・SATORI(大沢さとり)の香水ブランドです。コレクションはすべてSATORI自身の処方により調合された特別感のある香り。初めて香水を試される方や、外国の強い香水に疲れた方にもお勧めです。日本の気候と情緒に合う、優しくおだやかな香りをお楽しみください。

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